ボーイ・ミーツ・ガール・イン・バトル・フィールド

 M-2890ハンドガンを両手で構え、スミスは尋問室からゆっくりと出た。

 警報が鳴りっぱなしだ。時折爆音に銃撃音、が聞こえる。それと、人の悲鳴が。

 この場所で戦闘をしている。

 おそらく、このヒーザンズの戦闘都市が、ゼロイチ教団に攻撃を受けているのだろう。

 高い位置からの空気を切り裂くような音まで聞こえる。ゼロイチ教団は、巨大な人形ロボット兵器に航空から対地攻撃を行うガンシップまで保持していると、キセノン機関からのブリ-フィングではきいている。

 スミスはとにかく、状況が、知りたかったが、むやみに、基地内をうろつくのは、危険かもしれない。

 腰をかがめ、用心しながら、基地内を進む。階段を用心しいしい上がる。どうやら、スミスは地下二階に居たようだ。

 地下一階も同じような、檻房がズラッと並ぶ。

 スミスは、実は、キョンを探していた。まだ処刑されていないはずである。

 一瞬天井が明るく光ったかと思うと、耳をツンざくような爆風が全身を覆い、右斜め後ろに吹き飛ばされた。

 腰をかがめ左に半身の姿勢だったのだ。

 スミスは何がおこったのかわからなかった。一体は、砂埃、コンクリートの破片で、真っ白になった、当然スミスもまっ白だった。

 それでも、スミスは、M-2890のハンドガンは手放さかった。いつもの、全身負傷有無チェック。なにか、大きな臼砲か対地ミサイルが地上から、地下一階に向けて発射されて炸裂したようである。

 まだ、耳はジンジンしていて、音が全く、消えない。

 あたりが、白いままあかるい。地下一階の天井はすべてなくなっていた。左手で目を覆いつつゆっくり辺りを確かめる。

 目の前に、破壊された、鉄格子の奥に居る、キョンが居た。二度も、近くで爆発を受けても死んでいない、なんてタフな女なのだ。

 しかし、以前のヒーザンズの戦闘で受けた、爆発の負傷で皮を剥がれたあと額がぱっくり裂けている。

 キョンが何か叫んでいる。全然音そのものが聞こえない。鼓膜が破ぶれたかもしれない。 まだ、キョンが叫んでいる。頭から血をダラダラ流している。上を見ろと言っているのだ。

 スミスが、上を見ると、、そこには、鉄の頭のない巨人が居た。かがみ込み、こっちを覗き込んでいた。

 ゼロイチ教団の大型人形ロボット兵器<ヘッドオフHead off>だ。全長は、15ネル程度か、丁度人の10倍の大きさだ。大型の鉄の巨人だが、頭がないことから、ヘッドオフ(首なし)と呼ばれている。

 腕の付け根の肩の位地は、肩よりさらに高い位置にあるが、このロボットには頭がない。そして、バランスをとるのを容易にするため、足は極端に短く、踝から下は、以上に大きく、面積が縦に広い。そして、膝の関節は人と違い、逆足で、丁度鳥や獣の後ろ足のようにまがり、歩みをすすめる。

 そしては腕は地上に擦れるほど長い。そして、物を沢山つかめるように手の平というより、拳そのものが大きい。人は、丁度ロボットの股間のあたりにドラム缶サイズのコックピットに搭乗している。そこから、顔だけ覗かせて、この鉄の巨人を操っている。

 両肩には、左に丸いや、ゼロ、右肩には、縦棒、イチが、それこそ、キョンの頬の入れ墨のように大きくマーキングされている。

 そして、我々の胸に当たる位置には、目をもじった、イニシャルが醜悪に描かれている。

 カメラやセンサーなどそこに搭載していないのに。

 スミスは、耳はおろか、目もまだちゃんとあけられなかった、どうにか、細目をあけ、M-2890ハンドガンを両手で構える。 もちろん弾丸は、9ミリなどでなく、銃身の下にポンプ式に装弾されている、分子間力破砕弾。

 鉄の巨人から手が伸びてきた。この<ヘッドオフhead off>、躰の三分の一が腕だと言っても言い過ぎではない。

 スミスは迷うことなく、M-2890のグリップにちょっと飛び出てる、下の引き金を引いた。

 ドワッ。

 これは、発射音。

 そして間髪おかずに、それより、はるかに大きな音がする

 バガっ。

 これは、弾頭の作用音。

 信じられない轟音ごうおんがして、鉄の巨人の丁度、頭のあるあたりに半径1メートル強の球形の無が生まれた、分子間力に作用したところとしていない所の破断面は、綺麗に赤い切り口で切り取られている。しかし、そこには、この巨人の頭はない。そしてこの分子間力破砕弾はまだ、コントロール出来る弾頭ではない。

 一応、撃った軸線上にその分子間力が無効化される球形の地点が出来るが、どれくらい手前か奥か、また、球形の大きさもそのときによって、まちまちだ。

 しかし、いかなる分子間力も無力するとういうことは分子レベルでそこになにもない無の球形を作れるのだ、そこにある物質は、形を維持できないというよりすべてなくなる。分子として存在できないからだ。

 鉄の巨人は、胸の上部と両肩の内側をちょっとえぐられた程度だ。

 ゼロイチ教団パイロットが驚いているのが、わかる、しかし、<ヘッドオフHead off>の動作には、一切支障がない様子で、更に手を伸ばしてくる。

 まだ、狙えるほど目が回復していない。

「キャー」

 女の悲鳴でスミスの耳が若干だが、回復した。地上から屈み込んだ、鉄の巨人が腕を伸ばし、右腕でキョンを攫っていった。

「キャァァァァァァァ」

 キョンは悲鳴を上げ続けている。助ける義理はないのだが、と思いつつ、腕の付け根をねらい、

 M-2890で、正確には、分子間力破砕弾を狙いつける。引き金は引くのでなく、この拳銃の場合破砕弾のトリガーは押すのだが。

ファック・ディスFuck this!(これをやっちまえ!!)」

 スミスは分子間力破砕弾の引き金を引いた。 

 耳が若干回復しているのか、ものすごい発射音がした。

 ドワッ。

 そして、

 バガッ。

 綺麗に球形に鉄の巨人右腕の二の腕部分が無くなっていた。

 ドッカーン。

「キャー」

 鉄の巨人の右腕の前腕部分がキョンを持ったまま、落ちた。

 スミスは駆けより、ちぎれて馬鹿になっているはずの、鉄の巨人の指を開き、キョンを救い出そうとする、が、おもったより、鉄の巨人の指の関節が固くて開かない。

 キョンが幾度も巨大な紐なしのブーツで鉄の巨人の指を蹴りつけて、ようやく開いた。

「こっちだ、行政のまぬけなくそ犬」

 キョンが言った。

「えっ、なんだって?、もうちょっと大きな声で言ってくれ」

ファック・ユー・ホワーFuck you whole(これでも喰らえ売女)ライク・ア・カンティ・ハウンドlike a cunty hound(女陰のクソ犬)」

 と顔の周りを血だらけにしてキョン。

 女の言葉使いとは思えない。


 元あった、であろう階段をどうにか登り、地上に出ると、そこは、地獄の有様だった。

 ゼロイチ教団は、5体ほどの鉄の巨人でヒーザンズの基地都市を攻撃していた。上空には、兵員輸送と対地攻撃を兼ねるガンシップ、数機。空軍力を持たないヒーザンズに対し、超低空でガンシップで蹂躙、虐殺を重ねる。いたるところに、ガンシップの機銃で文字通りバラバラになった、遺体の一部や、死体が倒れている。ガンシップにも、まず"丸"これはゼロの意、そして"縦棒"これはイチの意が描かれている。

 鉄の巨人は、地上のヒーザンズの兵隊を掴んでは引き裂いたり、腕で薙ぎ払ったり、逆足の巨大な足の裏で踏みつけていた。

 ガンシップの飛ぶ、もっと上空には、無人の対空戦闘機のドローンが虫のように飛んでいる。

 高度が高ければ、高いほど、有人である必要がなくなってくるのだ。ゼロイチ教団の技術者がこれを逃すはずがない。

 ヒーザンズは、遮蔽物や、地下から、バズーカや、対戦車砲、炸裂弾搭載の機関砲で、どうにか、撃ちかえしているが押されているのは、見てて明らかだ。

「なぜ、クソ・ネコはバズーカや破砕弾を撃たないんだ」

「えっ、なんだって?」

「お前は黙ってろ、カンティ・ハウンドcunty hound(おまんこ犬)」

 とにかく、こんなところで、二人して、立っているのは、馬鹿だ。とにかく、近くの砲弾の炸裂痕に身を潜める。

「ハウンド、見ろ!。ネコどもの新兵器ドワーフ《dwarf》(小鬼)だ、この前、あれで二日間追い回された」

 とキョン。

 そしてキョンの指差した方向に目を差し向けると、ヒーザンズの地下基地から、丁度小人のような姿をした全身装甲兵が次々と出てくる。背後に動力を積んでいるらしく、そこもまとめて、頭から、つま先まで、全身装甲化されている。

 相当動きが遅くて鈍いのかと思っていると、わりと軽快にドワーフは動く。右手には、超巨大な分子間力破砕弾。

「でも、無駄だ、分子間力破砕弾を発射するまで、生きていられるかが勝負だ」

 と吐き捨てるようにキョン。

 スミスは大分、耳が回復してきた。ドワーフとといっても、小銃の弾丸等の対人戦闘のに強いだけで、ガンシップが掃射したり、鉄の巨人が腕で薙ぎ払ったり、足で蹴り飛ばすと、一掃されている。

 一方的だった、試合が、ちょっとゼロイチ教団が優勢まで持っていった程度だ。

「くそハウンド、ここに連れてこられる時に、見たものがある。動くかどうかわからないが、このままでは、お前も私も、ヒーザンズに間違われて教団から永遠の眠りをもらうだけ、、、」

 そこまで、キョンが言った時、スミスとキョンの真横をガンシップの機関砲の掃射が走った。

 思わず、反対側に身をかがめる。

「だ。」

「語尾を言い直さなくても、もう聞こえてるぞ、しかし、ヒーザンズを助ける義理なんてないだろう」

「どっちかに加担しないと生きていけないぞ、ハウンド」

「じゃあ、するなら、優勢なゼロイチのほうだろう、もう装甲兵も半分はやられたぞ」

「あぁ、そうだ、もうすぐ教団は世俗兵から虎の子の聖なる僧兵、去勢兵に切り替える、連中に心はないぞ、そうなったら本当の終わりだ。お前も私も信者ではない。戦闘の後、偽信者だと、バレたらもっともむごい方法で殺されるぞ」

「じゃあ隠れていよう」

 それが、兵士でなくスパイの道だ。

「それは、犬のすることだ、私は違う」

「俺には、重要なミッションがある、そのためには生きていなくては、いけない。お前のように無鉄砲には生きられない」

「やっぱり、広域行政の犬か、おまえは」

「そうだ。広域行政の兵隊だった正に犬だった」

「情けなく、お手やお座りをするのか」

「そうだ、情けなくする、だが、ときに噛み付くのもハウンドだ」

「どうかな?大概の犬はキャンキャン泣き叫び逃げまわるだけだろう。噛みつく犬なんてまれだ」

 キョンが微笑んだ。一瞬だが、女性らしく見えた。

「どうかな?」

 今度はスミスが同じセリフを言った。

 そしてスミスが、キョンをじっと見て、言った。 

「それより、お前は、何者なんだ、その入れ墨の意味は、俺でも知っているぞ、信者でなく、脱教者だろ、いま戦争をやっているんだぞ、どっちサイドに属するかだけでも教えてくれないか」

 キョンが口をつぐんだ。燃えるような目でじっとスミスを見返す。

「心配するな、お前を売ったりしない」

 スミスはさとすように言った。

「好きで、こんなに額の皮を剥がれ、頬に入れ墨を頬に入れるやつなんかいない、それぐらいわかるだろう、この負け犬が」

「まだ、負けていない」

「とにかく、来い。負け犬」

 キョンは、銃撃の止み間を見図っているふりをすると、一瞬の早業でスミスの右腕を右足で回し蹴りを決め、M-2890拳銃を蹴り飛ばし、一瞬で拾った。

「これがないと、困るだろう、負け犬。それが犬だ。私から、奪ってみろ」

 そういうや、銃撃のさなか、窪地から飛び出すと、ヒーザンズのほうに走っていった。

 スミスは、かなりの間、逡巡した。銃がなくても、ここに伏せていて、戦闘が終わってから、荒野の方に逃げることは可能だ。

 しかし、それで、生き残れるか。<ウィーバー>で墜落したときと同じことの繰り返しだ。

 水も食料もない。

 かといって、このままでは、信者にはなれない、ゼロイチ教団の教えなんて何も知らない。

 それに偽信者にせしんじゃには、もっともむごい死を与えられると、キセノン機関のブリーフィングで聞いた。

 あの原始人みたいな女に従わなければ、ならないことが、一番屈辱だった。

「なんで、こんなことまでしなければ、いけないんだ」

 スミスも、キョンの後を追って、銃痕がはじけ飛ぶ中、走り出していた。

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