トーク・トゥ・トーク
スミスは、久しぶりにゆっくり眠ったような気がした。
気がついたら、今度も虜囚だった。
今度は、匂いでは分かった。
し尿と汗と涙と皮脂、人が長時間風呂に入らなかったら、発する全ての臭い。
且つ、それの混ざったどれでもない匂い。
臭いのもとは三つ在った。
自分が今寝転んでいた、朽ちかけたマットレス、そしてトイレ用の板を渡した溝、そして自分自身。
スミスはゆっくりカラダを起こすと目の前にある、格子を眺めた。どうやら、人用の檻房ではあるらしい。動物用でないだけマシだ。
お隣というか、この階は全てスミスの檻房を除いて空室らしい。煩わされずに済む嬉しい限りだ。
どこだ、ここは。
キョンの居た居住地も結局、戦闘に巻き込まれて全然わからなかった。
キセノン機関で聞かされた情報と状況がこのアミュでは違うことが分かってきた。
それと、ミッション計画も怪しい。
薄暗い光が建物の階段から差し込んでいるから、ここはどうも地下であるらしい。
カラダを簡単に探ったが、キョンの時以上に綺麗に武装解除されていた。
脳震盪のせいか、時間の感覚がない、2広域行政標準時ほどぼーっとしていただろうか、 階段を、ブーツをガツガツいわして、スカーフを巻いたヒーザンズの兵士が降りてきた。
肩には、軽量のアサルト・ライフル。
兵士は廊下に出たところで、壁のスイッチを押した。
ヴィーヴィーと二回、警報音がなったところで、檻房の格子が自動的に開いた。
「出てこい、スミス」
なぜ、自分の名前を知っているのか、不思議だった。
スカーフのヒーザンズの兵士は、顎でしゃくり、ライフルをつきつけスミスを先に歩かせた。
「ヒーザンズは、味方だって聞いて、アミュに降下したんだが」
スミスは言った。
「捕虜は、一切私語が許されていない」スカーフのヒーザンズは言った。
従ったほうが良さそうだった。
スミスが、連行されたのは、コンクリート張りの小さな小部屋、窓がない。
テーブル1つに向かい合わせの椅子裸電球の照明、明らかな取調室。部屋は汚れているが、血の跡や、血の匂いがしない、拷問は行われないということか。
「エージェント、スミス、掛けたまえ、私の名は、<バッド・ランズ>のマルテル。アミュ流の名前では、不満かね」
椅子に掛けるや、スミスはたたみかけた。
「早く、ミッションのフェーズに戻してほしい、私は、君らヒーザンズと協力して、ゼロイチの連中を、、」
「まぁまぁ落ち着き給え」
<バッド・ランズ>のマルテルが言った。<バッド・ランズ>のマルテルはガッチリした体格に、広域行政軍に一般的な戦闘服を着ている、作業服と軍内部では呼んでいるが。
「キセノン機関と、広域行政軍とどちらと連絡をとっているんだ」
「詮索好きのようだな、ますます怪しいな、あんたはエージェント・スミス、本名をいったらどうだ」
「本名は、ジョン・スミスだ」
「そんな名前を誰が信じる?」
「名前なんて、どうだっていいんじゃないのか、それより、ここの場所を 教えて欲しい、まさか、ウルデミア大陸から出ているとかってことはないだろう?」
<バッド・ランズ>のマルテルは、多少イライラした様子で胸のポケットからタバコをとりだすと一服し、煙をスミスに大きく吐きかけた、スミスはタバコを吸わない。高校までは吸っていたが、不良仲間のエアロバイクでの死とともに辞めた。これは、宣戦布告だ。「エージェント・スミス、あんたは自分の立場が分かっていないようだな」
「みたいだな、お互いが共有している情報に大分"差"それこそ、クソがつくぐらい、差があるみたいだな、<バッド・ランズ>」
<バッド・ランズ>のマルテルはニヤッと笑うと、喋りだした。
「俺達は、キセノン機関から、二重に暗号化されたタイトビームでこういう通信をうけとってる、船の名前までは、知らんが、軌道上まで降下したブルネット級の航宙艦から打ち出される<ウィーバー>は、6機。うち、完全に無人のデコイは、4機。ゼロイチの連中の目を晦ませるため、このアミュの大気圏で全て燃え尽きる、あとかたもなくなる。で、有人の<ウィーバー>は残り二機。一機は、ちゃんと着陸し、キセノン機関から派遣された、エージェントが一人乗っている、もう一機にも乗っているが、航宙艦のハンガーでサボタージュされ、<ウィーバー>はエージェントを乗せたまま不時着するもしくは、エージェントはパンチアウトかベイルアウトしパラシュートで降下」
スミスは、冷や汗を感じた<ウィーバー>の数が、二機増えている。
<バッド・ランズ>のマルテルは続けた。
「で、<ウィーバー>か、そのパラシュートで降下したやつは、俺たちの位置をゼロイチの連中に知らせるダブル・スパイだと」
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