帰り道に山菜採り

 山や森の緑がいっせいに芽吹き、青空とうすい葉が輝くこの季節、食卓も同じ色に染まる。

 雨の降らない日は、仕事が終わるとみんなで目の前の森に入っていく。コゴミを採るためだ。いたるところ、それこそ家の周りにも生えているくらいなのだけれど、必ず職場の前で採る。なぜかといえば、もう、太さが段違いなのだ。長らく採られていなかったのかもしれない。向こうで食べていたときも、こんなに緑が濃くて太いものはなかった。去年見つけたその場所で、私たちはその日に食べる分だけを採って帰る。洗ったりするのも大変だし、なにより量があればそれだけ調理するのも手間がかかるからだ。私もいつも五本ぐらいにしている。「そんだけ?!」とよく言われるけれど、ひとりなのだから十分である。作り置きもしない。ゆがいたあと、わさび×ごまドレッシングをかけて食べるのが最近のお気に入りだ。鼻にツンとくるほどしっかりわさびがきいていて、とてもおいしい。

 コゴミとはシダ植物の一種で、その若芽を食べるのである。まだ下草が生えていない頃に伸び始めるので、見つけやすく採りやすい。ハサミやナイフで切ったりはしない。必ず手でぽきん、と根元の方から折る。そして株あたり二三本は残しておくことが大切だ。これはコゴミだけのことではなく、山菜全般に通じることでもある。全部根こそぎ採ってしまってはいけない。新芽がないということは、次がなくなるのだから。

 そうしてあんまり簡単に折れるものだから楽しくなってきて、どんどん折って追って折って追って……気づいたらずいぶん奥まで入ってしまった。なんてことはよくある話だ。山菜めがけて岩場を登ったら、降り方がわからなくなっていた、とか。タケノコを抱いたまま鍬を引きずって斜面を滑り降りるはめになった、とか。おいしいものには苦労がつきものなのである。遠く上の方にタラの芽があったとき、人はそれがすでに天ぷらに見えているのだろうと思う。

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