大地に試されている

 いまだ記憶に新しい六月一日、私は朝からストーブを焚いていた。「もう六月だっていうのに……」とうんざりした。そうして今日、この暑さの返り咲きである。日中は三十度超えを記録した。窓の外から送られてくる風は生ぬるく、熱風のようにも感じられるほどだ。おもわず顔をしかめてしまう。日差しはじりじりと肌を焼き、セミはせわしなく朝から鳴き通しである。ただひとつ幸いともいえることは、セミの声がさほど暑苦しくないことだろう。こちらの人は「うるさい」と嫌そうにしているけれど、私にとっては秋の虫かな、とも思える風流な鳴き声なのだ。ともすれば夏の終わり、ヒグラシを聞くときの心地に似ているかもしれない。

 しかし暑いことに変わりはなく、夕方といえる時間帯になってもまだ窓を開けたまま過ごしている。これまではどれだけ家の中が蒸されていても、帰宅して三十分も外気をとりこめば過ごしやすくなっていたというのに。天気予報をみれば、今夜の気温は二桁のままらしい。これはもう夏といってもいいのではないだろうか。たとえ食卓が、まだ山菜まみれだったとしても、だ。

 けれども私はすでに知っている。一筋縄ではいかないのがこの大地である。週間天気予報は「浮かれるなよ」と私たちに釘を刺す。ひとたび空がかげれば、あっというまに最高気温十二度がやってくるのだ。今度は寒さがぶり返す、というわけだ。そんな季節外れの霜におびえながら畑を耕した私たちに、道を示す鳥がいる。カッコウが鳴けば豆を蒔いていい、というのが昔からの習わしだとおじさんは言った。だから私は待っていた。カッコウが鳴くのを。

 そうして起き抜けに鳴き声を聞いた日、さっそく苗を買ってきたのである。庭のすみにある小さな畑には、今年はミョウガとズッキーニが植わっている。追いかけキュウリとトマト、ナスが仲間入りを果たす予定だ。うまく育ってくれるよう、みなさまにおかれましてもどうか祈っていてほしい。

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