春、せまる

「まだ雪は降りますか」

 と聞かれた。降ります、と答えた。今日も降っています、と。

 厚い雲だなあ、と空を見上げていたら案の定降り出した雨。かと思えば一分もすれば過ぎ去る。すると青空が西の方からやってきて、たちまち力強い日差しを浴びることになった。その時点でも変な天気なのに、屋内で談笑していれば、どんどん暗くなってくる。今度は雪だ。それも大きめの。雹か霰かというぐらいだったが、ふわふわとしていて当たっても痛くなかった。まるで片栗粉が降っているみたいだった。外を歩けば、みんなの頭に片栗粉が乗っかった。手で払ってもとけずに塊のまま落ちていった。こんな雪もあるんだと不思議に楽しくなった。

 三月も終わりに近づくこの頃でも、降雪は珍しくない。積雪があっても天変地異ではない。『彼岸荒れ』という言葉もあるほどで、吹雪になることの方が多いらしい。雨の方が珍しいくらいだ。

 しかししばらく、もしないうちにまた空は晴れわたり、春らしい陽気となる。プラスの十度にもなれば上着なんていらないくらいである。近日中にはプラス十五度と聞いたので、職場では「どうすんの? 半袖?」と戸惑いの声が上がった。実際どうなんだろう。みんな半袖出勤するのだろうか。それはそれでちょっとおもしろい。十五度で、なんて関西では考えられないことだ。

 こうしてまた春がやってくる。長い長い冬を越えて、ようやく。雪解けの道路縁にフキノトウを見かけたので家の周りでも探そうと思う。春一番といえばこの苦さだろう。今年は春が早く訪れそうだ。とはいえ、まだ油断のならない時期は続く。どうにも浮かれてしかたがない。職場のおじさんと、山菜採りに連れて行ってもらう約束をした。例年の春以上に豊富な種類が食べられそうで嬉しくなる。

 そんななかニュース番組では連日、本州各地の桜の様子が放送されている。豪華で、華やかで、お花見という習慣を懐かしく思って、少し寂しくなる夜であった。

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