凍りつく朝
冷え込みが厳しくなってくると車のエンジンをかけてすぐに発進、ということができなくなる。暖機運転をしたいのもあるのだが、フロントガラスなどが凍りついているためである。決してここでお湯をかけてはいけない。急な温度変化でヒビが入ることもあるし、その水分がまた氷になる。だいたい五分くらいすると溶けて視界はクリアになるが、車内は冷え切ったまま。発進はできるので大抵上着を脱がずに我慢して乗っている。
今日はひさびさに氷点下二十度弱を記録し、フロントガラスどころかドアも凍りついていた。ドアハンドルが取れそうなぐらい、全体重をかけて引きちぎるように開けた。ベリベリッと音を立てる。真冬にはよくあることだ。しかし今日初めて、そのハンドルが戻らなくなってしまった。知らずにエンジンをかけ、乗り込んで、ドアを閉めようとする。閉まらない。何度やってもピーッピーッと警告音が鳴り、車内灯はついたままで、ドアが開いていることを知らせてくる。しかたがないので外に出てみておもいっきり押してやろうとしたら、立ち上がったままのドアハンドルが目に入った。
こんなことってあるのか!
ガチガチのそれを押したたんで乗り込み、閉めてみると今度こそうまくいった。一安心する。外れてしまわないかと心配になることは何度もあったけれど、まさか勝手に戻らないなんて。
そうして家の敷地を出ると、森の木々に霧氷ができていた。今シーズン、もう何度も目にしているがやはり美しい。朝の光を反射してかがやいている。雪ではなく、氷のために世界は白くかがやく。とちゅう、まるで死にに行くような、この世ではないような景色の中を通る道がある。雪だと木々のシルエットが膨らむし、気温も高くなりやすいためどちらかといえば可愛さが勝るのだが、樹氷は違う。しん、とした寒さの中で静かに--いや、これは実物を見ていただく他ないだろう。私の持つ言葉以上の美しさがここには広がっている。
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