私は今日も元気です。

 奇妙な間柄の友人がいる。奇妙な、といっても私たちは特段なんということもなく振舞っているのだけれど、紹介するとなって相手方の視点に立つとそう思えるのも納得だった。

 仲はいい、はず。私の一方的な好意でなければ、の話だが。関西圏に住む人で、私がこちらに来るまで精力的に参加していたボランティア団体での仲間だ。この人の話をすれば八百字ではおさまらないほど面白くて不可思議なので、いつか私とおしゃべりすることがあれば尋ねてみてほしいネタではある。とにかくその友人とは、たまにメールを送りあうくらいには仲がいい。当時、とある企画中の夜更けにJRの時刻表をめくって「旅行したつもりごっこ」をして遊んだこともある。あれはなかなか楽しかったし、接続の悪さに四苦八苦したりした。

 そんな私たちだが、メールを送りあうといっても、そこに返信を期待していないところがミソなのである。現状報告というか、日記のような文章を送る。私の方は割合返事をすることが多いのだけれど、あちらは本当に稀なのだ。返事がきた例としては、カモメが翼を広げた全長が私の身長より長いことを知り、即座に教えたところ「比恋乃(ここは実際には本名が入る)より大きいものの方が世の中には多いと思います。」と言われたものがある。あとは羆が冬眠から目覚め始めたと市からのメールがありました、と送ったら「比率を考えると熊にメールを送るべきだろう」などという。そのとき住んでいたところは、人よりも熊の数の方が多かったので、納得できるようなできないような。文面を見て笑ったことは確かである。まあしかし、確実に読んでくれていることは知っているので、こうして四年経っても細々と現状を伝えている。

 つい先日、ひさしく送っていないことに思い至り新規メールを作成した。

「釣り好きのおじさんより、一人で食べるには多すぎるイクラをもらいました。痛風にならないか心配です。」

 私は今日も元気です。

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