ストーブは命綱

 みゃーこが眠る位置からストーブまでの距離で、だいたいその日の寒さ度合いがわかるようになってきた。ギリギリまで近寄っているときもあれば、離れたソファでまるまることもある。今夜は威力を一番小さくしたからか、もうそれ以上近づけないというところで平べったくなっていた。

 私がこの町にやってきた冬の日を思い出す。十二月のある日だった。ストーブを点火し、ダウンコートを着たまま目の前に座った。やがて温もりが感じられるようになり、十センチほど後ろに座った。しかしなかなかコートが脱げない。寒さがちっとも和らがないのだ。この家が寒すぎるのか、今日という日が寒すぎるのか。わからないままだが、徐々に離れることができ、やがてコートも脱いだ。寝るときも一番小さな火で点けたままにしておいた。でないと凍えて眠れない可能性があったからだ。一体あのときの部屋は何度だったのだろうか。一晩中ストーブを焚いていたにも関わらず、部屋の隅に置いていたペットボトルのお茶は、冷蔵庫から出したばかりみたいに冷え切っていた。ひとりで笑った。

 あれから、この土地の寒さに慣れていったのだろう。初日と同じく一番小さな火にも関わらず、私は家の中で半袖裸足の生活を送るようになっていた。二間続きとキッチンがあるだけの狭くて小さな家だったから、きっとあたたまりやすかったのだと思う。

 そうして今は広い家に住んでいるわけだが、二番目に小さな火で長袖靴下着用(時折ニットのベストも)という現状だ。くやしい。冬は、外はどんなに寒くたって家の中では半袖裸足なんだと言いたいのに。ただの見栄である。それでも外が零下二十五度を記録したって、室内は二十度を超えるのだから暖かいといって差し支えないはずだ。

 今年は冬になるのが早かったとはいえ、まだ寝ている間や出かけるときは消している。しかし、やがては点けたままの生活になってしまうことだろう。せめて年の暮れまでは我慢したい。

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