味付き玉子のつくりかた
近くの温泉街では、あちこちの水路からもうもうと湯気が立ち昇っている。朝早いうちでは、霧なのではないかと勘違いしてしまうほどだ。排水路には温泉が流れていて、野良猫たちは冬の間その湯気の上で夜を過ごしているらしい。たしかに暖かくてよい寝床だろう。私のベッドの下にも欲しいくらいだ。ただし無臭で頼む。
そしてある日、導入とはまるで関係のない、味付き玉子が突然食べたくなった。温泉玉子ではない。急にカルピスが飲みたくなったり、甘いものがほしくなったり、粉もん(あるいはソース)欠乏症になったりすることはあるが、味付き玉子は初めてのことだった。
どうやって作るのかを調べて、一晩おかなければいけないことを知り遠い目になったことは言うまでもない。いま、せめて今晩食べたいのに。明日にならなければ食べられないなんて非情ではないだろうか、と。それでもどうしても食べたかった私は、ひとつをゆで玉子として食べることで玉子欲を抑える計画を立て、漬けだれを作った。
しょうゆ、みりん、砂糖を5:5:1の割合で鍋に入れ、それと同じだけの水を加えて一煮立ちさせ冷ましておく。
その間に冷蔵庫から出した卵をべつの鍋に並べて、おたま一杯の水を流し入れた。蓋をして中火で六分。火を止めてから四分半。これで半熟玉子ができあがる。氷水に転がして、冷えてから殻をむいた。新しい卵だったのだろうか。いくつかボコボコになってしまった。それでも味は同じなのだし、誰にあげるわけでもない。そうだそうだ、と自分を励ましつつ漬けだれで満たしたジップロックの中にむいた玉子を投入していく。ひとつは私の口の中へ入ったので、のこりの七個が明日以降の日々の楽しみとなるわけだ。冷蔵庫を閉めて、くるりと一回転。ああ! 明日が待ち遠しい!
そうして私はカレーを作る。らーめんではなく、カレー。目玉焼きをのせることもあるのだから、味付き玉子がのってもいいだろうという考えである。
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