冬支度は早いほうがいい

 家の裏、森の入り口に鳥のエサ台が設置してある。それは私が置いたのではなくって、以前ここに住んでいた人によるものだ。だからというか、生活に向上心のない私はとくになにもしないままでいたのだけれど、父がそうではなかった。冬のある日、ホームセンターで鳥のエサというものを買ってきたのだ。そうしてバラバラと載せてこっそり家の中からのぞく。するとカラ類が次々とやってきた。ハシブトガラやシジュウカラなどである。食べやすいものや好きなものがそれぞれあるらしい。一羽がいなくなった隙を狙ってまた新たな個体が飛んでくる、なんてこともあった。毎日毎日鳥を呼んでいると、そのうちカラスまでやってくるようになる。とはいえ、カラたちが来なくなるかというとそうでもない。なんだかんだと鳥社会もうまくいっているようだった。台所に立つと、ちょうど目の前に窓があって、そこからエサ台が見えるようになっている。やがて両親が内地へ帰って、私がひとりになっても朝食を作りながら鳥を観察できるようにエサを置く習慣は続いた。

 ところがである。雪がとけて春が近づくと、ぱたりと一羽も来なくなったのだ。エサがいつまでたってもなくならない。そこで思い出したことがひとつ。同じくエサ台が家にある友人に聞いたことがあった。春になるとぱたりと来なくなるのだ、と。虫、つまりは食べるもの、おいしいものがどんどん出てくるからだろう、と。つまりは鳥がエサをもらいにこなくなった時点でここは春になっていたのかもしれなかった。

 そして今、秋を迎える。あれからまるで気にしていなかったエサ台だが、どうやらいつのまにかなくなっていたらしい。来訪した両親が気づいた。「あんたエサ置いてなかったでしょ」と言われるが、違う。なくならないから放置していただけ。しかし、ということは何者かが食べていたということになる。見守るそこにやってきたのは、冬越しの蓄えを始めたシマリスであった。

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