早起きは三文の徳?
朝日が昇るよりも、うんと前に目覚ましに起こされた。設定したのは昨晩の自分だけれど、時間を見ると「なぜこんな早くに……」という気持ちになってくる。しかし雲海を見るためにはしかたがない。
眠たい目をこすりながらもぞもぞと起き上がり、着替えて、少し考えてから上着を手に取った。
車で走って峠を登る途中で、すでに白んできた空に浮かぶ雲は高く、これでは雲海はのぞめないだろうと予想できた。それでもせっかく来たのだからとてっぺんまで。三脚にカメラを据えた人たちがパラパラと待ち構えていた。常連に間違いないだろう人たちにまじって、冷たい風が吹きすさぶ中、日の出を待つ。持ってきた上着では心許なく、もっと強いのを携えてくるべきだったと後悔した。
高い雲は空一面に広がり、昇る太陽すら隠す様子だったが、なんの偶然か、ちょうど昇ってくるあたりにだけ雲の切れ間があった。日の出までのこり十分、湖面がきらめく。
一部分だけ橙に染まっていたかと思えば、光の道を湖面につくり、やがて集束した光は太陽と見紛うほど眩しくなった。目が痛い。でも目が離せない。文字どおり刻一刻と変わる様子に、寒さ、は忘れられなかったが立ち尽くして見入っていた。うつくしかった。丸く集まっていた光の塊が、今度は霧散する。きらきらが散らばる。この間にもそれまでにも、カメラマンたちはシャッターを切るのに忙しそうだった。私の見るこの景色がどう写しこまれているのだろうか。
再び光が集束したときには、さきほどよりもやわらかな輝きになっていた。湖面に描かれる風紋もまたうつくしく、なめらかで、届かないのに触れたくなる。くしゃみをひとつ。そろそろ限界かもしれなかった。その頃には太陽は昇りきっていて、湖面だけのものではなくなったようだった。雲海を見ることはできなかったが、そうでなくとも景色はうつくしかった。また来よう。次はもっと厚着をしなければ。
帰り道、キツネとすれ違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます