毛皮のない私と毛皮のあるみゃーこ

 言い訳をするならば、室温が二十度をきりそうだった。今シーズン初のストーブ点火となった今日、最高気温は十六度であった。

 朝から雨が降り続いており、夜のまったりタイムを迎える時間になってもまだしっかりと降っている。通勤に上着をはおるのはなんとなくやめて、圃場でも半袖であった。湿度が高かったからかさほど寒さは感じなかった。事務所から圃場への行き来のさなかで私のビニル傘は骨を一本折ってしまったが、まあ使えないこともないのでそのまま車に積んである。そんな日だった。

 帰るなり部屋着に着替えたのだが、それがまだ夏仕様であった。ぺらぺらのパンツ(made in Thailand)に半袖のシャツ。オクトーバーフェストで入手したビールのイラストが前面に描かれているのも相まって、なんとも浮かれた格好になってしまう。もはや外は冬を迎えようとしている秋なのだ。これでは耐えられないと思い、ほんの少しストーブの存在が脳裏によぎったが我慢する。長袖に着替えて、嫌いな靴下を履き、ウールのベストをはおる。みゃーこはその間もドタバタとエサほしさに走り回っていた。ちなみにみゃーこはこのベストに取り付けられたボタンと遊ぶのが大好きなので、気づかれないよう注意しなければならない。そうしてから、カーテンもぴっちり閉める。さあ、私は今夜をこれで乗り切れるだろうか。

 結論から言うと、というよりも冒頭で明らかにしてしまっているが、ストーブを点火した。リビングに取り付けた温度計は二十度を下回ろうとしていたし、「ここ(北海道)で寒いのだけは我慢したらあかん」という友人の言葉を思い出した。寂しくなるから、ということらしい。「点火します」と宣言したストーブはそのうちに炎をまとった。最弱で燃えてもらうのでさほど変わらないかもしれない。みゃーこはストーブより遠く、ソファの端でだらんとのびていたから、あの毛皮は寒くないのだろう。うらやましいことだ。

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