ミツバチの羽音
私の仕事仲間にはミツバチがいる。花粉媒介をお願いしているのだ。彼女らはなくてはならない存在で、ご機嫌取りをすることによって仕事が成り立っているくらいである。嗅覚はイヌ並み(この場合は役に立たないという意味にはならない)であり、少しでも嫌なにおいがすると巣から出てこない。気温が高すぎると暴れてそこらじゅうにぶつかったり、巣箱の中で羽ばたいて中の温度を上げ、そうして熱で死んでしまう。けれども紫外線を感知して飛ぶために天気が悪すぎてもいけない。私よりよっぽどデリケートである。
その姿はとても愛らしく、花の上をくるくる回っては顔にも足にも花粉をつけ、もぞもぞと巣箱を出入りする。活性剤で満たされた容器を取り囲んで我先にと飲む姿も、おしりが揺れてたいへんかわいい。作業中には花粉が舞ってにおいもよく飛ぶらしく、すぐ手元にやってくるのであいさつなんかしてみたりする。おはよう。がんばれ。花が咲き、実を結ぶ過程において、虫というのはとても重要な存在だ。その中でもハチは重宝されている。
しかしまあ、よく死ぬ。死骸はそこかしこに落ちている。それが葉っぱや花の上だったりするとなんだかやるせない気持ちになったりもするが、自分勝手だなあと同時によぎった。ミツバチはきれい好きで、巣箱の中のフンや死骸はかきだして外に捨てるのだが、死を悟った彼ら彼女らは自ら外へ出る。外へ出て死ぬのである。飛べないミツバチが足下を這っていることは日常茶飯事だ。彼女らの過労死によって成り立っているといっても過言ではないかもしれない。死ぬのと同じくらい生まれているのだろうけれど、私たちが目にするのはいつだって死だけである。先日猛暑日が続き、多くのミツバチが死んだ。働かないオスだけが残り、徐々にその姿さえも消えていった巣箱だってある。おつかれさま。ありがとう。新しいミツバチの巣箱が届く。そして私たちは願う。よく働いてくれますように、と。
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