干し野菜

 仕事帰り、大根を三本もらった。とくに大きな一本はそのまま友人宅へ配達し、残る二本とにらめっこをする。さあ、どうしてやろうか。

 一本の三分の二は大根サラダにした。短冊に切った大根とキュウリの千切りを塩もみしてしばらくおく。水が出たらしぼってシーチキンを加え、マヨネーズと胡椒で味を付ける。いつもは大根だけで作るのだけれど、今回は漬物用のキュウリがたくさんあったのでよっこ(※)させてもらった。あとの三分の一はそのうち味噌汁の具にでもなることだろう。

 というわけでここからが本番である。残りの一本は、切り干し大根を作ってみることにしたのだ。いつだか買っておいた干しカゴを引っ張り出してきた。百円均一で見つけた百五十円の品物だ。ホームセンターにあるような立派なものではなく、一段だけだが、お試しでやってみるぶんにはちょうどいい。皮ごとザクザク切っていく。スティック状にした大根がカゴの底一面に並んだ。きっとこのときもう少し薄く切っていたり、干し始める前にキッチンペーパーなどで軽く水気を拭き取っていればもう少し早く乾いたのだろう。それは次回の私に期待することにして、とにかく人生で初めての干し野菜に挑んだ。

 始めてから二、三日くもりの日が続く。もっとちゃんと天気予報を見ておけばよかったと思うものの、「やりたい」を逃すとずるずる後回しにして結局やらないままでいるのが私なのでしかたがない。雨降りがこわかったので、物干し部屋につるしていた。なんとなく表面を触ると乾いてきたような気がする。心なしか縮んで、敷き詰めてあったところに隙間ができている。成功する予感がした私は、一緒にシイタケも並べてみた。なんだか楽しくなってくる。

 そうしてやっと晴れが三日続いた最後の日、切り干し大根が完成した。大根をくれた人におすそわけしよう、とさっそく水に浸す。……矛盾を感じてしまう瞬間であった。


※よっこする→よけておく、とっておく

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