こんなところに住むわけ

「どうしてこんなところへ?」

 そう、よく尋ねられる。自分も住んでいるのに「こんなところ」と言ってしまうのはどうかと思っていたが、最近私も「こんなところまでよく来ましたね」といろんな人に言っていた。それはなにも私の家が森の中にあるからではなくって、住んでいる町全体の田舎の程度によるものであるし、交通の不便さによるものでもある。

 じゃあ私は一体全体どうしてこんなところへ来てしまったのだろうか。そしてどうして街灯もなく隣の家まで車で行くようなところに一人と一匹で住んでいるのだろうか。転勤とか結婚とかそういうものでないと言う私の動機が気になる人はこれまでにもたくさんいて、きっとこれを読んでくれている人の中にもいるのだろうと思う。だからそれについて書いた記事があってもいいんじゃないかと、十六話目にして実行してみる。

 私の親戚のおばさんが、この町にお嫁にきたことに始まる。そしてそれをきっかけに、私達家族が北海道ほんのり一周夏休みの旅を計画してこの町に訪れたのだ。両親がたいそうこの土地と人を気に入ったということで、それ以来毎年同じ場所へ来ている。北海道旅行というよりも、私がいま住んでいるこの町に来ること、ここに住んでいる人に会うことが目的だ。来始めた頃は、あっちへ行ったりこっちへ行ったり色々忙しなく観光していたが、十年も過ぎるとそれもあまりしなくなった。ただのんびりと明日の予定もなく、今日という日を行き当たりばったりで過ごす。それをくり返しているうちに、この土地に住みつきたくなったというわけである。外から仕事や家を探したって見つからないことはわかっていたから、まずは住み込みで働ける宿に突撃。夢見た土地からは離れていた。しかし北海道には入ったわけだから、あとは徐々に居住地を憧れの場所に近づければいい。そういう計画だった。向こう十年はかけるつもりだったそれも、一年と経たずに実ってしまったわけだが。

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