うだる日もある

 我が家にはクーラーがない。必要がないからだ。扇風機もない。必要がない、とは言い切れないのがたまにくる耐えられないほどの暑い夏の日である。扇風機くらいはあってもいいのではないだろうかと毎年考えはする四年目の夏。いまだ購入には至っていない。というのも、使うだろう回数がかぞえられるほどしかないことがわかっているからだ。三日か、四日耐えしのげばすぐに冬になってしまう。秋をとばしたように感じられるかもしれないが、そのような扱いを受けて然るべきほどしか存在しないのが事実なのだ。残念なことに。

 とにかく、とうとう夏というものがやってきてしまって、うちにはそれに対抗する術が窓を開けて服を脱ぐことしかない。ささやかな風の流れをとらえるためにただじっとして動かないでいる。みゃーこは優秀なので、その時々でいちばん涼しいであろう場所にバタンと倒れ込んでいるようだった。私もそのセンサーにあやかって、一緒に移動してはバタンと倒れ込んだ。ここで重要なのは決して触れあわないことだ。みゃーこには私よりもはるかにふかふかな毛が生えそろっているし、体温も高い。そうやってついて回っていたのだが、眠りこけて目を覚ますと、すでに移動を完了していることもあった。置いていかないでほしい。

 しかしこのままではなにもできないまま夜を迎えてしまう危機を感じ、億劫ながらきちんとした服を着て外へ出ることにした。喫茶店に救難届けを出しに行った。無事に受理されたそれは、ジャム入りのソーダ水となって返ってくる。大きな氷をカラカラと回しながら、ソーダ水を赤いジャム色に染めていった。それだけで涼やかな気持ちになる。本当は店に入った瞬間から、涼しさに感激していたのだが、気分は大事だ。

 小一時間読書(ピエール・ルメトール著『死のドレスを花婿に』)をしながら避暑に励み、外で風が流れ出したらしい気配を察知してから店を出てきた。期待通り気温は下がっている。

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