横断するいきもの

 北の大地での運転で気をつけなければならないものナンバーワンは、言うまでもなく鹿である。その次にキツネやタヌキやレンタカーや人なんかがくるのだが、もう圧倒的に鹿。カエルや毛虫の道路横断はたまに見かける。

 道路縁に動物がいるのを見つけると「もうちょっと待って!」と強く願うどころか口に出している。「絶対出てこんといて!」(筆者は関西出身)もよく叫ぶ。まったく通じてはいないだろうけど、思わず声に出してしまうくらい危なっかしい。

 私達はクマをはじめとする野生動物の住処におじゃまして生活しているわけで、どちらが優位でどちらが優先されるべきかとかは決められるものではないし、決めるものでもないはずだ。だからどうかぶつかることのないように、と日々忙しく目を走らせている。

 あとは不可抗力なところで、ワイパーにオニヤンマ先輩を挟んでしまったことがある。まっすぐすぎる道を走っているとき、突然先輩はフロントガラスに現れた。いつ挟まったのか定かでなく、あれだけの大きさであるから、きっとぶつかったときに音も響いただろうに。私はまるで気づかなかった。まったくの不慮の事故だ。気づいてからしばらく走って路肩に停車し、ワイパーから先輩を救助した。翅が折れてしまっていてもう飛ぶことは不可能だろうと思われた。そっと脇の草原に置く。申し訳ない気持ちを抱えつつ再び車で走り出した。

 このできごと、当時の職場の後輩に見られていて、後日「あそこでなにしてたんですか?」と聞かれた。私の返答はもちろん「ワイパーに挟まったオニヤンマを外してた」だ。嘘みたいでネタみたいだけれど、本当のことだからそのように伝えた。虫だって道路を横断するのは命がけなのだろう。二車線道路を横断しようとする蝶々を見守っていたら、さいごはトラックにぶつかってしまったことだってある。ついこのあいだフロントガラスに飛び込んできたのは蝉だった。ワイパーには挟まらなかった。

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