13:ダメオークにフルスイング
「どんな魔法を使えるんです?」
そういえば、異世界に来たのにまだ魔法を見ていない。
興味本位で訊ねると、
「こう、杖でガーンと殴るんです」
ブン、と杖を野球のバットみたいに振るう。
まさかの物理攻撃だった。
「え? 魔法、ですよね?」
「みんなが言うには、私の魔法って杖で殴ったときにしか出ないらしんです」
「そ、そうなんですか」
変わった魔法だ。もしかして、強化魔法なのかな?
まあ、プレイ中に魔法を使うわけでもないだろうし、問題はない、か。
「では、その……魔王役の私が、出来の悪いオークを叱ります。軽く杖で小突くので、倒れてください。そこを私が、その……さ、触る……形で」
俺の格好、オークだったのか。
どうせなら、エルフか姫騎士を襲いたかったなぁ。
「は、はい……」
顔を真赤にさせて言われると、恥ずかしくなる。
でも、考えてみたらこれが正しい反応だよな。今までの女たちは、恥ずかしいことを堂々としすぎなんだ。
恥ずかしいことをしようとしている――そう意識すると、心拍数が上がってくる。
ドキドキ。
さてさて、俺はどこを触られちゃうんでしょう?
「では、行きますね?」
メメさんが杖を振り上げた。
「マタドジヲフンダナー、コノオークメー!」
棒読みで言いながら、杖を振り下ろそうとし――
「ひゃっ」
メメさんが何もないのに躓いて、転んだ。
ドズン。
わーい。お尻を突き出す形で倒れたメメさん。ロングスカートがめくれて、真っ白いおパンツ様がこんにちはしているよー。
しかもフリルがいっぱいで、かわいい下着だ。
こういうドジっ娘的なのって、そそるよね。
「だ、大丈夫ですか?」
落とした杖を拾ってあげようとして――んん? おかしいぞ。
「も、持ち上がらない……」
試しに両手で掴んでみるも、びくともしない。よく見ると、杖の先端が床にめり込んでいる。見た目は軽そうなのに、なにこれ。
「あ、いいですよ。それ、ちょっと重いですから」
立ち上がったメメさんが、杖を片手でひょいっと持ち上げる。
「男の子はムリしないでいいですよ」
変なことを言う。
いや、この世界では変じゃないのか。
「さあ、今度こそやりますね」
またもブンブン、杖をスイング。
待って。おかしいぞ。
魔法使いのする動作じゃない。
もしかしてメメさんって、脳筋なんじゃないか?
本当は魔法使いの才能なんてなくって、戦士か武闘家の方が向いているのに、周りは気を使って魔法使いの役割を与えてあげているんじゃ――。
そうだよね。
殴ったときにしか発動しない魔法なんて、おかしい。絶対物理攻撃だわ。
「では、行きますね」
メメさんが杖を両手で振り上げた。
「わーっ、待って待って!」
「……? どうしたんですか?」
ぴたり、杖がメメさんの頭上で止まる。
それをくらったら、また俺は死ぬぞ。
もう転生用のポイントはないらしい。それだけはごめんだ。
「殴るのは無しで。言葉責めの方で、お願いします」
「そうはいきません! これは魔王によるお仕置きなんですから!」
結局、杖は振り下ろされた。
❤❤H❤❤
――起きてください。
――私を一人にしたら許しませんよ。
――トモマサさん、お願いだから起きて……。
誰かが俺を呼んでいる。
――お、お兄ちゃん……起きてくれたら……胸を舐めさせてあげます。
なんだと!
おっぱいが俺を呼んでいるぜ!
「……今行くぞ、おっぱーーーーーい!」
気がつくと、真っ白な天井があった。
どうやら俺はベッドに寝かされていたらしい。
「あ、あれ? 一体、なにが……」
ズキズキ痛む頭をおさえ、辺りを見渡す。ベッドしかない、狭い部屋だ。カーテンを開けてみると、窓の外には夕日が見える。よかった、女神界送りになったわけではないみたい。
ベッドの脇には、女神様がいた。
「女神様。おっぱい舐めさせてくれるって、マジですか?」
女神様の顔が、信号機みたいに真っ赤になったぞ。
「な、ななな、なにバカなこと言ってるんですか! 頭おかしいんじゃないですか!」
「あれ? 起きたら舐めさせてくれるって。女神様の乳首と俺の乳首を合わせて、コリコリ合戦させてくれるって。そう言いませんでした?」
「そこまでは言ってません! いえ、舐めさせるとも言ってませんけど!」
あれ?
じゃあ夢だったのかな。
「起きたのならそれでいいんです。私は部屋に戻ってます」
「あっ、女神様……」
女神様は出ていってしまった。
「目覚めたんですねー」
入れ替わるように、ルーシアさんが入ってきた。
「ルーシアさん。俺、どうなったんです?」
「殴られて気絶していたんですよー。ポーションを無理やり飲ませたので、怪我は治ってるはずでーす」
「そ、そうなんですか」
やっぱり、メメさんの一撃をくらっていたのか。よく生きてたなぁ、俺。
「妹さんが心配していましたよー」
「そうなんですか?」
なんだかんだで俺のことを気にかけてくれているのか。
結構、嬉しい。
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