第四章 魔王コースとラッキースケベ

12:魔王様にえっちなことされ隊



「ううぅ……お腹が痛い」



 また朝がやってきた。

 今日のお相手も、昨日の吸血鬼みたいにヤバそうな人だったらどうしよう。そう考えると腹が痛くなって、トイレから出られなくなった。

 俺の勤務時間は、朝の10時から夕方の5時までということになっている。実際にプレイするのは、使命があった時のみだ。


 他の男と出くわさないのは、どうやらみんなは寮に入っていないかららしい。

 仕事のコツとか聞いてみたいけれど、知らない男と顔を合わせるのもなんか嫌なので、別に会わなくてもいいさ。


 とかなんとか考えながら、トイレに篭もること30分。



「いつまでそうしてるんですか。もうすぐ10時ですよ」


 扉の向こうから、女神様の呆れ声が聞こえてくる。


「お腹のお薬とかないかなあ。そーゆーポーションってないのかな」

「あるかもしれませんが、余計なものを買っているお金はありませんよ」

「とか言って、さっきも焼きリンゴ食べてたじゃないか。昨日はフルーツの瓶ジュース飲んでたよな? 飲み食いするお金はあるのに、薬を買うお金はないのか!」

「心配症から来る腹痛程度で、薬に頼らないでください。そんなものに頼るから、すぐお腹を壊すんです」

「鬱になったらどうしてくれるんだ!」

「貴方みたいな人は、打たれ弱い反面、案外図太いんですよ」


 足音が遠ざかっていく。

 言うだけ言って去っていきやがった。ちくしょう。


「太っても知らないからなーっ、バカフラン~~~~ッ!」


 ……叫んでも反応がない。

 なんか恥ずかしいな。

 遅刻して怒られるのはもっと嫌なので、俺はトイレを後にした。





              ❤❤H❤❤




「さっそく指名が入っていますよー」


 受付に行ってみると、ルーシアさんがいつもの笑顔を浮かべながら言った。

 ああ、ルーシアさんのおっぱいを揉むバイトがしたい。



「あ、あの……」

「なんですー?」

「俺が新人なのって、公開してるんですよね?」

「してますよー。ほら、名簿です」


 ルーシアさんがガラス板に入った用紙を手渡してくれる。

 桃色男子一覧!

 と、よくわからない一文の下に、男の似顔絵がズラリ――というほどでもないな。三人ほど描かれてあった。


「従業員? 少ないですね」

「うちはまだ出来たばかりなんですー」


 そうだったのか。

 俺の似顔絵は――割りとそっくりに描かれてあった。

 新人・トモマサくん(17)、とある。

 あれ、俺年齢言ったっけ?

 女神様が話したのかもしれないな。


 面接の時には聞かれなかったと思うが、俺が15歳未満だったらどうしていたんだ。

 待てよ。年齢のチェックがずさんだとすれば、もしかしたら15歳未満の女の子も――。



「今日一発目は、“魔王コース”でーす」


 ルーシアさんの声に、ハッとなった。



「ま、魔王コースですか……」


 俺か客が魔王になり、勇者だったり冒険者だったり配下の魔物だったりをいじめ抜くコースらしい。冊子に書いてあった。

 なんか不安だなぁ。



「魔王になるのはどっちなんです?」

「お客様でーす」

「じゃあ俺は……」

「魔物でーす。配下の魔物が、魔王にセクハラされて耐え忍ぶシチュエーションでーす」


 魔王のセクハラて。恐ろしい響き。





 俺が着たのは、イノシシのキグルミパジャマみたいな服だった。フード付きで、顔はちゃんと外に出るタイプ。


 通された部屋は、壁がレンガになっていて、床には赤い絨毯が敷かれている。魔王城をイメージしたセットらしい。正面には玉座があり、そこに本日の女の子が座っていた。



「あ、私、メメって言います。よろしくお願いします」


 少女は目が合うなり立ち上がり、頭を下げた。

 被っていた三角帽子が、床に落ちる。



「あ、こちらこそ」


 慌てて、俺も会釈する。

 メメさんは赤いマント、ロングスカート、水晶みたいな飾りがついた杖といった、魔法使い風の格好をしていた。



「あ、あの、魔王……なんですよね?」

「は、はい。そういう設定です」


 メメさんから、同族の匂いがする。彼女は視線をあっちへこっちへ彷徨わせ、声もちょっと震え気味。お陰で俺はメメさんの顔を見て話せそうだ。



「私、冒険者をやっていて。パーティでは魔法使いを担当しているんです。それで、慣れない衣装を着るのは恥ずかしいので、私服のままなんですけど。魔王、です」


 ぺこり、また頭を下げる。



 礼儀正しい娘だ。前回の吸血鬼とは違う。

 女神様が言うには、この世界にもモンスターは存在するらしい。

 といっても、世界制服を目論む魔王がいるわけではない。猛獣の延長線みたいなモンだ。それを狩るハンターが、冒険者なのだとか。魔物っ娘の方は普通に人間扱いされている。昨日の吸血鬼も、別に悪者ではない。


「ということは、パーティでは魔法を使って仲間を援護しているんですね?」


 メメさんが頷いた。

 魔法使いなら力がそんなにないだろうし、性格も控えめみたいだし、おっぱいは結構大きいし。今度こそ当たり引いたぞ!




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