11:こいつをしゃぶれ、しゃぶらんかーっ!



「……ぷはあっ。ふふっ。若い男の子のエキスは美味いのう」


 ブラックさんが俺の首から口を離し、言った。

 恐る恐る自分の首を見下ろそうとしても、見えない。だけど、ニセの鎧に包まれた自分の胸を見ることは出来た。

 首から垂れてきたのか、赤い液体がぽたぽた。


「ひいいいーっ!」


 俺は慌ててブラックさんから離れ、反対側にある壁に背を向けた。

 首を押さえてみると、濡れている。ちくちく痛む。


「ほ、ほほほ本物の吸血鬼ぃぃ~~!?」

「おおう。いい反応をするのう。そそられる」


 じゅるりと舌なめずりをするブラックさん。

 このロリ痴女はマジで俺の血を吸いやがった!



「さぁて、次はどこの血を吸ってやろうか」


 じりじりとブラックさんが歩み寄ってくる。

 ぴょんぴょこ揺れるツインテールが、死神の鎌み見えてきた。

 うわああっ、犯される、というか殺されるーっ!

 恐怖で脚がガクガクしてきた。

 それを見事な演技だと勘違いしたのか、ブラックさんは嬉しそうに笑う。


「ふふふ。そんなにいい反応をされると、濡れてしまいそうじゃ」


 濡れ濡れになったら絆創膏は剥がれちゃうんですか?

 乙女の花園、見えちゃうんですか?



 とか考えている場合じゃねーっ!

 逃げないと、マジで死ぬんじゃないか?

 プレイだし、大丈夫なのか?

 でも怖いよ助けて女神様ーっ!


 ブラックさんに目と鼻の距離まで接近されて、俺は思い出した。

 皮ズボンのポケットに、アイテムを入れているんだった。



「く、来るなぁっ!」

 俺は十字架とニンニクを取り出すと、ブラックさんの鼻先に突きつけてやった。


「そ、それはっ!」


 ブラックさんが狼狽える。

 やったぞ、効いている!



「は、はは……。脅かしやがって、この吸血鬼め!」

 ぐいぐいブツを押し付けてやると、ブラックさんはどんどん後退していく。


「ひゃあぁんっ! やめてたもれ、やめてたもれ~~~~!」

「とかいって、本当は嬉しいんだろう?」


 ついには入り口のドアまで追い詰められ、ぺたんと女の子座りになった。



「ひええーっ、堪忍じゃ、堪忍じゃーっ!」

「ええいっ。こいつをしゃぶれ、しゃぶらんかーっ!」


 少しだけ楽しくなってきて、嫌がるブラックさんの頬に、モノを押し付けてこすりつけた。

 もちろん、十字架とニンニクのことだ。



「あぅーっ、妾の清き身体が穢されるーっ!」

「さあどうした? 漏らすか? 漏らしてしまえ! 黄色いジュースを俺にたーんとご馳走させるのだーっ!」


 突然、ブラックさんが引いたような目をした。




「あ、ごめんなさい。今のはなしでお願いします」


 やりすぎたようだ。


「ひぃーっ、お漏らししてしまうーっ!」


 と思ったら、大丈夫だったみたい。



 ブラックさんがまた怯え始める。いや、これは本当に効いてるんじゃないか。

 こんなことをされるのが望みだなんて、変態さんだ。

 こいつは絆創膏を剥がし、直接大事なところを舐めてあげるべきなのかもしれない。


 くっくっく。ペロリストとして、かつてツインテールのアニメのキャラを脳内でペロペロしまくった俺の舌技を味わうがいい!

 そう思って胸に手を伸ばすと、ジリリリ、とベルが鳴った。

 終了の合図だ。


 くっ、いいところで!

 なんか短かったぞ!

 短かったよな?

 30分位しかたっていないと思う。

 短縮コースを設定したのか?


 ここ“桃色ドラゴン”では、各コースに何パターンもの時間設定が存在してるのだ。たとえば、30分、1時間、2時間とか。もちろん、時間が長いほど料金は高くなる。

 一応は延長も出来るのだが――。



「ありがとうございました」

 ブラックさんが立ち上がり、言った。

 延長はしないらしい。


「え? あっ、はい」

 思わず頷いてしまった俺の手から、十字架とニンニクを取るブラックさん。


「あれ? そ、それ、平気なんですか?」

「平気ですよ。吸血鬼が十字架とニンニク苦手だなんて、迷信ですから」


 そう言って微笑むブラックさんの口には、鋭い牙が見えた。

 吸血鬼という存在は迷信ではないらしい。


「次お会いする時は、十字架とニンニクはナシの吸血プレイにしましょうね。死なない程度に吸いますんで、よろしくです」


 ばたん。

 ブラックさんが出て行った。



 えええええええーーーー。

 ということは、次回の俺はなんの抵抗も出来ずに血を吸われるってこと!?

 急にめまいがしてきて、俺は座り込んだ。

 異世界の女の子、マジ怖い。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る