14:するときは、私だけでしてください



「トモマサさんはちょっと貧弱ですねー。もう少し身体を鍛えたほうがいいですよー? でないと、いつか死にまーす」


 笑顔で言うルーシアさん。

 笑って言うのが逆に怖い。



「いや、この世界の人達が強すぎるんじゃ……」

「この世界?」


 ルーシアさんが首を傾げた。



「あ、いえ……なんでもないです」


 危ない危ない。

 別に、転生してきたことを秘密にしないといけないわけではない――と思うけど、へたに喋れば頭のおかしい人と思われかねないからね。魔法のある世界なんだし、大丈夫かもしれないけど。どっちにしろ、言う理由もない。

 いや、言ったほうが考慮してくれるんだろうか。

 どうだろう。逆に、使えないやつだと思われるかもしれない。


「でしたら、次回からは、トモマサさんとのプレイはもっとソフトに行うよう、注意書きを載せておきますねー」

「あ、はい。それでお願いします」


 この世界で言う“ソフト”が本当にソフトなのか、怪しいものだけど。



「そろそろ夕ご飯できるので、先にシャワーを浴びちゃったらどうですかー?」


 ルーシアさんはそう言うと、部屋から出ていこうと背を向けた。




「じゃあ、そうしま――」


 俺はベッドから降りようとして、完全には回復していなかったのかもしれない。ちょっとだけめまいを覚え、ふらついた。

 そして、ルーシアさんのモフモフな尻尾に、顔を突っ込んだ。


「ひゃぁっ」


 ふおおおおおお。

 毛がふさふさで、滑らかで、なんか甘い匂いもして、獣臭くなくて、すんごおおおおお~~~~い。


「と、トモマサさんっ、だめ、尻尾は敏感なんですっ!」


 ルーシアさんの裏返りつつある声で、我に返った。

 慌てて尻尾から離れようとして、ふわり、メイド服のスカートをめくってしまった。

 ほら、尻尾ってスカートの下から出てるし、ね?

 顔を離す時に、尻尾も動かしちゃったみたい。それで、尻尾を使ってスカートを、ね?


 見えたのは、淡い緑と白のシマシマパンツだった。


「やぁ~ん」


 ルーシアさんがスカートをおさえ、振り返った。

 一応言っておく。事故です。

 狙ってToLOVEるみたいなことをする勇気、俺にあるわけないじゃないですかー。

 とは思っても、口に出せず。ただ冷や汗をかきながら、後ずさる。



「トモマサさん……?」


 ルーシアさんは狐耳をぺたんと閉じて、真っ赤になった顔で俺を見る。



「ご、ごめんなさい」

「気をつけてください。お仕事中以外での行為は、メッですよ!」


 メッ、頂きました。


「き、気をつけます。すみません……」


 視線を床に落としながら言うと、ルーシアさんは


「本当、気をつけてくださいね」

 念を押すように言って、部屋を出ていった。


「あああああやっちまったああああああああ!」


 ゴン。

 と頭を壁に打ち付ける。


「嫌われたかな。キモがられたかな。ラッキースケベって、実際に起こるとこんなにも気まずいんだな」


 おかしな転び方をして、脱がしてもしゃぶっても許されるなんて、えっちな漫画やラノベの主人公が羨ましすぎる。


「……考え方によっては、俺も許されたみたいなモンだけど」


 でも、二回目をやらかしたら、クビだろうなあ。

 とかなんとか思いつつも、頭のなかにはルーシアさんのパンツが浮かんでしまう。

 尻尾の毛も、気持ちよかったなあ。

 念願の、ケモミミ娘のお尻尾モフモフ。

 やらかしたことは反省しているし、怒られて怖くもあったはずなのに。


「……悲しいけどこれが男なんだなぁ」


 ルーシアさんみたいな女の子ばっかりだったら、最高なのに。





 シマシマを脳内で再生しながら、シャワールームへと通じる脱衣所のドアを開けた。


「……え?」

「あ、あれ……? 女神様……?」


 まさかのラッキースケベ二連発!

 脱衣所では、女神様がバスタオルで身体を拭いていた。

 ほんのりと上気した桜色の肌。水滴滴る、ちっちゃなおっぱい。抱きしめたら折れてしまいそうな、細い腰。その下には――


 バスタオルを顔に投げられた。

 うひょっ、湿ってる!

 これは女神様の身体に付着していたお湯!


「これがほんとの女神汁ですね!」

「出ていってください!」


 今度はお腹を蹴られた。

 



                  ★★H★★



 自室に戻り、女神様の裸体とルーシアさんのシマシマを交互に思い出していると、女神様が戻ってきた。


「えっちなことはお仕事のときだけにしてください」

「それ、ルーシアさんにも言われました」

「ルーシアさんに? 彼女にナニかしたんですか?」


 ジト目になる女神様。


「い、いえ……なにもしてませんが……」

「…………本当ですか?」


 じーっと見つめてくる女神様。

 やめて!

 見つめられるのに慣れていないから、辛い!



「へたれなトモマサさんのことです。わざと覗いたわけじゃないのはわかっています」


 さすが女神様。

 良き理解者だ。


「とはいえ、ノックもなしにドアを開けたのは、許されざることです。反省してください」

「はい、すみません」

「わかればいいです」


 言って、ベッドの下段――俺が寝起きしているスペースに腰を下ろす。

 なんか、自分の部屋に着た女の子がベッドに座り始めたみたいで、ドキドキする。

 ドキドキしすぎて、お腹が痛くなってきた。



「ちょっと、トイレ行ってくる」

「トイレでナニするんですか!」


 女神様が怒鳴った。



「ええっ!? 急になに!?」

「とぼけないでください! わ、私の、は、はは、裸を想像して! ナニをなにする気ですか!」

「しないよ! 普通にお腹が痛くなっただけだよ!」


 お腹が痛くなかったらしていたかもしれないけど。

 これは黙っておこう。


「な、ならいいですけど……」

「それに、そんなことしなくても、えっちな体験には困らなそうだし。ほら、こういうお仕事だしね? だから大丈夫。女神様ではしないようにするよ」


 睨まれた。



「その言い方は、なんかムカつきます」

「ええ……? ごめん」

「……するときは、私だけでしてください」


 えっ、今なんて言った?



「あの、女神様? それって、どういう……」

「なんでもないです。早くトイレに行ったらどうですか、お兄ちゃん」


 ぷいっと顔をそらされた。

 なんだ、聞き間違いか。


 そうだよな。いくら俺を見捨てない人だからって、私だけをおかずにしてください!だなんて、言うはずがない。

 とうとう耳までおかしくなったか、俺。

 もうちょっとしっかりしないと、ルーシアさんの言うとおり命を落としかけない。

 気合を入れ直そう。


 まあ、それは明日からするとして。

 とりあえずトイレに行こう。腹痛を鎮めるために、ついでに、お楽しみタイムをするためにもね。






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