第36話 さ ま よ う よ ろ い

「お姫様が行方不明に!?」

 うむ、と鎧の男は頷いた。

「部屋の前、そして外にも近衛兵がいたのだが、誰も部屋から出た姫の姿を目撃していない。城下町でも、姫の目撃情報はなかった。困り果てた王は、王国で一番腕の立つ私に姫の捜索を命じられたのだ」

「一人で?」

「うむ。私自ら志願したというのもあるのだが……。恥ずかしい話、我が国の財政状況はかなり厳しい。兵を動かすとなればそれ相応の金がかかるからな」

「はぁ……」

「姫の足ならそう遠くへ行っていないだろうと踏んだのだが、どこを探しても見当たらず……」

「それでこのダンジョンへ」

「うむ。王国の西のダンジョンが、一番近いという情報を得て、やってきたのだ」

 ……?

 おかしいな。ここは大陸の北。王国があるのは大陸の南。

「そしてこのダンジョンで迷い込み、一週間……。まさかこんなにも複雑で深いダンジョンが、この大陸にあるとは……油断した。これも慢心からくるものか……くっ。まだまだ修行が足りないか」

 ……今、なんて?

 このダンジョンで一週間も迷っていただって? ほとんど一本道の、ランク2のダンジョンで?

 ――以上のことから導き出される答えはひとつ。

 この人、間違いない。


 方向音痴だ……。


 それもかなり重症……。

 自分でそのことに気づいていないなんて。


「はっ。こうしてはおれん。姫を探しに行かなければ!」

 鎧の男は立ち上がり、ふらりと動き始めた。

 シルヴィアがちらちらと俺を見てくる。方向音痴のこと、教えてあげたほうがいいんじゃないの? とでも言っているかのようだ。

 確かに教えてあげるのが本人のためでもあるか。しかし、ちょっと面倒なことになりそうな気がしないでもない。


 さて、どうしたものか。

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