第2話 いきなり困った!

「大丈夫……ですか?」

「らいじょうふ」

 顔がパンパンに腫れているのがわかる。口の中が切れて痛い。

 ミーアが回復魔法ヒールをかけてくれていたのだけれど、すぐにMPは尽きてしまった。

 どうにかこうにか、町の宿屋に戻ってくることができて、ほっと一息。まさか、ルゴーの町の前の橋に、あんな強力なモンスターがいるなんて……。

 ヤツの名はミノタウロス。牛の顔をした、すごくマッチョなモンスターだ。推奨レベル20に対して、レベル3の俺とレベル2のミーアでは歯が立つわけもなく。ぼこぼこにされ、逃げ帰ってきたというわけだ。まぁ、ミーアが怪我をしなくてよかった。

 この近辺には出現しないはずのミノタウロス。完全な”イレギュラー”だ。ここらの冒険者じゃ束になっても敵わない。困ったな。

「ごめんなさい。ボクの魔法、役に立たなくて」

 ミーアが泣きそうな表情で言った。

「気にひなくていいひょ」

 宿屋には、時間の経過と共にHPとMPが回復する不思議な癒しの結界が張られている。一晩休めば、大抵の怪我も治ってしまうのだ。

「ほにかく、今日は休んれ、明日対策を考えひょう」

「……はい」

 とはいっても、ルゴーの町へ行くルートはあの橋を通るしかない。諦めて、難易度は上がるが遠回りして別の町に行くことにしようか。

 俺はぐったりとベッドに横になった。

 考えてみれば、女の子とお泊りなんて初めてなのだけれども、そんなドキドキわくわくなイベントを楽しむ余力などなく、俺は眠りについてしまうのであった。


 夜中。

 何か声が聞こえてくる。


「……はい。はい、すみません。必ず……必ず強くなりますから、もう少し待って……はい。あ、あと大変申し訳ないのですが、ルゴーの町付近にミノタウロスが現れてしまったので、どうにか……」

『やれやれ。あの程度のモンスターを倒せないようだと思いやられますね。今回だけですよ』

「はい……ごめんなさい。ありがとうございます」


 夢かうつつか。

 ひどい眠気に起き上がってそれを確かめることもできずに、俺は再び眠りに落ちた。


「おはようございます、アーティさん!」

「ああ、おはよう。ミーア。よく眠れた?」

「はい!」

 笑顔がまぶしい。

 俺は起き上がる。顔や身体の痛みはすっかりなくなっている。さすがは宿屋の不思議なパワーだ。

「さて、今日はどうしよう。ミノタウロスは倒せないだろうから、別の道を行くか、レベルをあげたり旅の資金を稼ぐか」

「あ、あの! もう一度、あの橋まで行ってみましょう! も、もしかしたらミノタウロス、いなくなっているかもしれないし!」

「えー。でも、まぁ……本来この辺にいるヤツじゃないから、“討伐隊”が動いてくれているかもしれないけれど」

「とうばつたい? あ! きっと、そうですよ。やっつけてくれているはずです!」

 うーん。遠目から確認だけでもしてみるか。

 俺たちは再び、ルゴーの町の前の橋まで行くことにした。


「いないな、ミノタウロス」

「いませんね、ミノタウロス」

 本当にやっつけてくれたんだろうか。昨日の今日で? いくらなんでも対応が早い気がするなぁ。

 ……ま、いっか! これで予定通り、ルゴーの町に行ける。

 俺たちは意気揚々と橋を渡ろうとした。その時。


 俺の足元にガガガッと何本かの矢がささった。びっくりして「うおわっ!」と大声だしてしまった。ミーアの前でちょっと恥ずかしい思いをしてしまった。

「だ、誰だ!?」

 俺の声は上ずっている。完全にびびってますよ俺。胸がどきどきしてる。

「ニンゲンめ。ここは通さないぞ」

 そこに現れたのはなんと――

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