第22話 ドワーフ族には使いにくい家②

「うーん、どうしたものかな?」



 大臣のギルギッシュが持ってきた依頼書を隅々まで目を皿にして読んでいた研吾はその内容に思わず天を仰ぎたくなった。



「どうかしたの?」



 その様子を不思議に思ったミルファーが手に持った二つの紅茶をテーブルに置くと向かいに座り聞いてくる。



「これを読んでくれる?」



 研吾が依頼書を渡してきたのでミルファーはそれを読み始める。



依頼書

【内容】住宅の改装

【依頼人】モロゾフ

【予算】金貨五枚

【詳細】背丈の低いドワーフである俺が住むにはこの王都の家は辛いものがある。なにせ、普通の背丈の人間にサイズが合わせてあるからな。かといって、全部俺のサイズに合わせると今度は普通の人間の来客がくると困る。これをなんとか解消してもらいたい。



「これは……確かに難題ですね」



 ミルファーは手紙を読んで初めて今研吾が悩んでいることを理解する。



「だからどうやって解決しようかなと思ってね」



 再び頭を抱え悩みだす研吾にミルファーは一言言う。



「どうしても出来ないのなら断ってもいいのですよ?」

「いや、それは本当にどうしようもない時だけだよ。まずはなんとかならないか考えてみるよ」



 ただ、ここで缶詰のようにこもって考えていても解決しそうにない。それなら——。



「ケンゴさん、一度外に出てみませんか? 素材を見ることで何か思いつくかもしれませんよ」

「そっか……。確かにこの世界の素材は俺の世界のものとは違うわけだし……、よし、一緒に見に行こうか」



 研吾は椅子から立ち上がり、ミルファーに手を差し伸べてくる。そこで初めてミルファーはこれがデートなのではという考えに至り、顔を赤く染め、恥ずかしがりながらもゆっくりとその手を取った。




 こうしてみると買い物以外で研吾とゆっくり出歩くのは初めてかも。



「こうみるとやっぱり王都だけあってそれなりに栄えてるんだね」



 行き交う人々を感心したように見る研吾。



「そうだね。ただ魔物とかに襲われやすい場所にあるからか、お店に売られてるものの大半は武器とか防具ですけどね」



 いくつも並ぶ武器屋、防具屋を見ながら苦笑を浮かべるミルファーだが、そんなものでも研吾は興味深そうに眺めていた。



「にいちゃん、武器は装備しないと意味がないんだぜ。試しに付けてみるか?」



 当たり前のことを言う武器屋のおじさんだが、そんなものでも研吾は感嘆の声を上げて喜んでいた。

 でも、こんなことでも研吾の気分転換が出来てるようなので安心したミルファーは研吾の後ろで静かに佇んで様子を眺めていた。




 適当に街中を見て回ったあと、研吾たちは適当に定食屋に入り、昼食を取っていた。



「こうやってゆっくりと見て回るのも新鮮だね。思えば俺の世界とは生活感とかも全然違うわけだし、そこも取り込むようにしないといけないんだもんな」



 気分転換のつもりだったのにすぐにそっちの方に話を持ってく……とミルファーは少しムッとなる。でも、それを考える研吾はあまりに楽しそうで何も言えなかった。



「そうだ! それならあそこも見に行ってみましょう!」



 この世界のものが珍しいのならあのお店も楽しんでくれるかもしれないと考えたミルファーは研吾にそこを勧めてみる。

 すると研吾はすぐに頷いてくれる。



「うん、ここを出たら行こうか」



 するとミルファーは大きく頷いた。




 研吾の手を引きながらミルファーは町の中央付近へとやってきた。ここは魔法の小道具なんかが置かれたお店だった。



「ここは雑貨屋?」



 魔力を流して初めて効果を発揮する道具たちなのだから、ただ置かれているだけだとそう思えても仕方ない。



「とにかく入ってみましょう」



 可愛らしい内装のお店に抵抗があるのか、研吾の足が重たい様だったのでミルファーがその背中を押す。そして、お店の中に入る。



「いらっしゃいませー」



 どこかのんびりとした口調の可愛らしいフリルがたくさんついた服を着た女性がゆっくりと近づいてくる。



「店内の商品を見せてもらっていいですか?」

「はいー」

「さぁケンゴさん、見て回りましょう」



 研吾に笑顔を見せるミルファー。その表情をみると研吾は断ることができず、一緒に商品を見て回った。


 しかし、呆れ顔で付き添ってるといった感じの表情だった研吾だが、すぐにその顔は興味でいっぱいといった感じに変わる。


 目の前にあるのはちょっと魔力を流してやると勝手に動く子供のおもちゃだ。小さな木彫りの鳥と鳥かごだが、その中の木の鳥はぴょんぴょんと中を跳ね回る。



「これ、どういった原理で動いてるんだ? 電池か? いや、違うよな」



 研吾は顎に手を当てて興味深そうに見ている。

 すると流していた魔力がきれたようでその鳥の動きは止まる。



「あれっ、止まっちゃったな……」



 止まった鳥かごをガタガタと揺らす研吾。



「ふふふっ、魔力を流さないと動かないよ」



 その様子が少しおかしく、小さく笑うミルファー。

 目の前でもう一度魔力を流してあげると再び動き出す木の鳥。



「あっ、動き出した……」



 不思議そうに動いてる木の鳥を再び眺める研吾。



「でも魔力で動くとなると俺には使えなさそうだな」



 少し残念そうにする研吾。しかし、すぐに気を取り直していた。



「他のやつも動くのか?」

「動くだけじゃないですよ。他にも種類によって色々な効果がありますので。試してみます?」

「うん、お願い」



 それならと側にあった別の道具を取る。

 そして魔力を流してみると鳥のさえずりのような音がなる。



「すごいすごい! 本当にどうなってるんだ?」

「元々そういう素材みたいですよ」

「素材が……か。他にはどんなものがあるの?」



 研吾は興味深げにまた顎に手を当てて考え始める。それならと別のものにも魔力を通すミルファー。



「こ、これは……」



 次のものは魔力を通すと大きくなる木の鳥だった。

 これは時間経過で小さくなるのではなく、水をかけると小さくなる。



「こ、この素材ってなんていう名前なの?」



 興奮気味にミルファーに詰め寄ってくる研吾。



「さ、さすがに素材名までは——」

「これはー、マルティネス方面の大森林に生えてるー、マカダの木っていうのですぅー」



 ミルファーの言葉を遮るように間延びした声が聞こえてくる。



「マルティネスっていうとここから東側の大森林ですね」

「はいー、そうですよー」



 ミルファーが店員と話している時に研吾はブツブツと何かを呟いていた。




 そしてこのお店を出た後、研吾はミルファーにお礼をいう。



「ありがとう。おかげでなんとかなるかも」



 手を掴み、何度も上下させてくる研吾の顔は満面の笑みだった。



「そ、それならよかったよ。ならこの依頼は——」

「うん、受けよう!」



 グッと握りこぶしを作り、真剣な表情を見せていた。




 お城に自室に戻ってきた研吾はすぐさまテーブルに向き合い図面を引き始めていた。



「ケンゴさん? 流石に家を見てからのほうが良いのではないの?」



 ミルファーが不安げに言うが研吾が書いていたのは部屋の間取りではなく、イスの設計図であった。



「さすがにこの時間から訪問するわけにもいかないからね。今できることだけをしておこうかなと思ってね」



 外は既に日が傾き始め、黄昏色に染まりだしていた。



「確かにそれもそうだね。それなら何か飲み物でも用意しようか?」

「そうだね。せっかくだからお願い出来る?」

「うん、任せて!」



 それだけ言うとミルファーは食堂のほうへと足を運んでいった。

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