第4話 収納の少ない家屋②

 必要な材料は木材くらいだろうか。

 あと、色々と細かい素材とかも必要になるのだけれど、その所在を聞いたらミルファーが「それなら魔法で代用出来ますよ」と言っていた。


 どれだけ魔法が便利なんだ! と言いたくなる研吾だが、楽に出来る分には助かる。


 更に基礎工事も土魔法? というものの応用で一瞬で出来てしまうらしい。


 そうなると必要になってくるものが建物部分の木材だけと言うことになる。

 木材……数を集めるとそれなりの値段になるなと思っていたら「この国では三方にある大森林から切り取ってこればお金はいらないですよ」とミルファーから言われた。


 なんでも、まだまだ未開の地なのだが、国を挙げて木を切ってしていくこともできず、そうなったらしい。

 ただ、そこから運んでくるとなると時間がかかるかも……。



「ミルファー、大体普通の家一件分の木材を切り取って運ぶのにどのくらいの日数が必要だ?」



 これは重要なことだった。その日数から人件費を割り出せる。木材の値段がかからないと言ってもこれは削ることの出来ない値段だからな。



「そうですね……。普通の家でしたら二日もあったら楽に運び出せると思いますよ」

「二……日……?」



 なにか騙されたのかと思ったが、全然そんなことはないようだった。

 ただ、今回は話がまとまった時点で既にバルドールが取りに行ってくれているようだ。出来たら見たかったが、それはまたあとからにしよう。



「では木材を待っている間に基礎の工事をしてしまいますね」



 建物の中でももっとも要となる足下の部分。これをおろそかにすると簡単に家が崩れてしまう。そんな部分なのに本当に魔法で、それもすぐに出来るのだろうか?



「基礎のコンクリートを作るには水とセメント、あとは細骨材と粗骨材が必要だよね? どこに置いてあるの?」

「……? その材料は一体なんですか?」

「えっ、そ、それじゃあどうやって基礎を?」

「基礎する場所に水を撒いて魔法で地中の固硬石を砕いたものと混ぜれば基礎は出来ますよ」

「ごめん。一度見せてもらってもいい?」



 研吾はミルファーの手を掴み、目と鼻の先まで顔を近づけて頼んでくる。

 しかし、いきなり顔を近づけられたミルファーは恥ずかしさのあまりその場で固まってしまう。



「もう、いきなり顔を近づけないでください!」



 ミルファーに怒られたので研吾は少し下がる。

 すると早速始めるためにあたりに水を撒きはじめるミルファー。そして、地面に手をついて魔力を込めていく。ゆっくりと流す魔力を増やしていく。

 すると地面だった所からコンクリートの塊が浮かび上がってくる。

 これには研吾も驚いたようで口を開けたままそれを凝視していた。



「ちょ、ちょっと待って! 何もない所から基礎が生えてくるなんておかしいよね?」

「——別にどこもおかしくないですよ」



 明らかにおかしな基礎の作り方をするミルファーに視線を送る。



「だって……うそ……」



 研吾はその目の前の出来事を信じられずに思わず声が出る。

 い、いや、こんな出し方で強度が取れるはずがない。

 出来上がった基礎に近づいていくと手でバシバシ叩いてみる。



「……痛い」

「当たり前ですよ! 基礎なんですよ!」



 当然だ。普通の基礎がその程度で壊れるはずがなかった。



「どうですか? これが土魔法の力ですよ」



 魔法すごいな!


 研吾は思わず自分も使いたくなる。



「魔法って誰でも使えるものなのか?」

「はい、練習は必要ですけど誰でも出来ますよ」

「それじゃあ教えてもらっても良いか?」



 少しわくわくしながら研吾は聞いてみる。

 するとミルファーは少し悩んだ後、「まだバルドールさんが帰ってきませんので少しやってみます?」と言ってくれる。


 召喚されたときに魔法についてなにか言われていた気もするが、あの時は夢だと思っていて全て聞き覚えていなかった。

 わくわくしながらミルファーが説明してくれるのを待つ研吾。



「まず、魔法ですけど、大気中の魔力を体内に取り入れて使います。この体内に取り入れられる魔力量には違いがありますので威力は変わりますが、相応の魔法を使うことが出来ます。ここまでは大丈夫ですか?」



 そうミルファーが聞いてくるが初めから何のことを言っているのかわからない。



「えっと、どういうこと?」

「はぁ……、わかりました。まずは実践してみましょう。ではこうやって手をつきだしてください」



 ミルファーに言われたとおりに研吾は手を前に出す。



「次に大気に語りかけてください。『風よ、吹け』って」



 これも言われたまま行う。



「風よ、吹け。風よ、吹け……」



 すると、ミルファーの周りには風が吹くが、研吾のそばには何も起こらない。



「……」

「……」



 しばらく沈黙が空間を襲う。



「ケンゴ様……、もしかして魔法を使えないのですか?」



 ミルファーは驚きの声を上げる。そういえば異世界人は魔法を使えない……ってことも言われた気がする。

 研吾は乾いた笑みを浮かべつつ、魔法が使えないことを残念に思った。




 それからしばらく待つとバルドールが大きな丸太を何本も抱えて持ってきた。



「えっ!? なんでそんなに持てるのですか!?」



 一瞬流しそうになったけど普通一本も持てないよね。それを何本も……。



「ふぅ……、これはここに置いておけば良いか?」



 丸太を下ろしていくバルドール。

 もしかするとこの世界の木は軽いのだろうか?

 研吾は丸太を持ち上げようと試みる。が当然持ち上がることはなかった。



「これ、なんで持てるのですか!?」

「簡単に上がるだろう? 強化魔法使えば」



 さも当然のように言い放つバルドール。やはり魔法なのか……。




 そして、バルドールは再び丸太を取りに行く。

 まぁ素材が来たので組み立てる指示を出す。そして必要な形を紙に書き出してミルファーに渡すとミルファーが必要な形に切っていってくれる。


 しかし、その切り方が独特だった。


 手を突き出すと丸太が切れていく。いや、よく見ると手で斬っているのではなくてその先からなにかが出ている。



「それも魔法?」

「あっ、はい。風の魔法を使っています。これを使えば思うがままに切れるんですよ」



 確かに便利だな。これがすぐにたてられる理由なのか……。



「ここまで便利な魔法があるなら家を建てるのも速いよね?」

「えっと、二週間もあれば完成しますね」



 さすがに一日とかは言わなかったな。そう言われたら俺の出番がないでしょ! と言いたくなっただろうけど、それは安心した。




 そして、再びバルドールが丸太を持ってきた。その速さ……一体どんな風にして取ってきているのだろう。そちらも気になってくる。



「ケンゴ様、こちらはこの指示の通りに作っていますから見に行ってきても大丈夫ですよ?」

「いいのか?」

「はい、そこまでソワソワされてたらいっぺん行ったほうが良いですよ」



 そんな目に見えるほどの反応をしていたのか……。でもここはせっかくだからミルファーの言葉に甘えさせてもらおう。



「じゃあ、少し行ってくるから後は任せるよ」

「はい。わかりました」



 研吾とバルドールはミルファーに見送られながら丸太を取りに行く。




 町の門から外に出るとすぐのところに大森林が広がっていた。



「すごいですね……」



 研吾は思わず感嘆の声を上げる。

 するとバルドールは何がすごいのかわからずに一瞬止まったあと笑い声を上げる。



「こんなもんすごいこともないぞ。それじゃあ、俺は木を切っていくぞ」



 そう言うとバルドールはすぐ近くの木に寄っていき、そして、それを思いっきり殴っていた。その殴られた木はめきめきという音を鳴らしながら倒れる。



「えぇぇぇ!? どうしてそれだけで木が倒れるのですか!?」

「……!? おかしなことを言うもんだな。殴ったら木なんて倒れるだろ」

「普通倒れませんよ!」



 どうやらこの世界に自分の持っていた常識は通用しないようだ。まぁ役に立つことなので覚えておけば良いだろう。

 研吾は木を倒しているバルドールを見ながらそんなことを考えていた。





 そして、倒し終えた木を軽々と担ぐと町へと戻っていった。


 研吾も何も持っていないのは申し訳ないとなんとか持とうとするが、やはり持てそうになかった。

 バルドールと共に倉庫を作っている場所まで戻るとちょうどミルファーが少しずつ組み立てていってくれていた。


 やはり魔法があるおかげか、作業が速いな……あれっ?


 感心しながら出来ている部分を見て回るとちょうど階段に当たる部分。ミルファーに渡した図面では扉を描いておいたそこは、なぜか壁になっていた。


 研吾は慌ててミルファーを呼ぶ。



「ミルファー、ここ! ここ壁になってるよ!」

「えっ、階段ですよね? 階段のところは壁ですよ?」



 さも当然のように答えるミルファー。もしかしたらこの世界の基本的な建築には階段の下に収納を作らないのが普通なのかもしれない。少々複雑な形になるからな。自分で建築をしているのならそんな面倒なことをしないかもな。


 とにかく、このままではダメなので研吾は直すように頼んでおいた。

 ただ、目を離すのは少し怖かったのであとの木材運びはバルドールに任せ、研吾はミルファーに直接指示を出していくのだった。

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