重い本1

 文庫本の発売日だった。男が書店の袋を抱えて帰宅すると、ベッドの上で、読みさしのハードカバーが言った。

「私という本がありながら、また浮気するのね」

「えっ」

 男の目が泳ぐ。

「あなたやっぱり、新しい本のほうが好きなんだわ」

「いや、これは違うんだ」

「どこが違うのよ」

 言いつのるハードカバー。

「いつも他の本とばかり出かけて、私は連れて行ってくれないじゃない」

「だって重……」

「重い本は嫌い?」

「そ、そんなことはない。いつも悪いと思っている」

「じゃあ読んで。ねえ読んで。今すぐ。ここで」

 その夜、男はベッドで一睡もせず、ハードカバーを読み続けた。

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