重い本2

「わかっているわ。私はもう、用済みなのね」

 男が外出しようとしたとき、かばんの中のハードカバーが言った。

「私がこの家に来てから初めての、あなたとのお出かけが、お別れの旅だなんて」

 ため息をつくハードカバー。

「所詮、あなたにとって私は、一度読んだら満足する程度の本なんだわ」

 何となく後ろめたい気分になって、男は弁解する。

「そ、そんなことはない。読んでいた間は、実に楽しかった」

「本当に?」

「本当だよ」

「じゃあ読んで。ねえ読んで。もう一回、もう一回でいいから」

 男は古書店に行く予定をやめて、家でハードカバーを最初から読み始めた。

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