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停まったタクシーに、手を引かれ乗り込んだ。
「運転手さん、
柏木が頭を下げながら告げた行き先。
急に決まったお泊まりに頭の中が騒がしくなる。
わりと格式高いホテルなのに、こんな普段着で大丈夫かなとか、ちゃんとした下着をつけてきてたかなとか、そういうコトは久しぶり過ぎるけど大丈夫かな……とか。
考えれば考えるほど心臓が騒ぎ、繋いだままの手にも汗をかいてしまっていた。
きっとすぐに柏木は『緊張してる?』と私をからかうだろう。
きっと、すぐに。
きっと……
……すぐに。
「お客さん、着きましたよ」
「へ?」
固まり続けていた私に訪れた到着の合図。
こんな時間でも東桜ホテルのエントランスはきらきらと眩しくて、誰だって目が冴えるほどの明るさだった。
――だった、のに。
「柏木、柏木っ」
何度腕を揺らしても、何度呼び掛けてみても……彼が深い眠りから戻ってくることはなかった。
「あのう、すみません……やっぱり柏幼稚園まで行ってもらっていいですか?」
柏木の家が幼稚園の裏手にあることだけは知っていた。詳しい住所まではわからないけれど、ゆっくり走ってもらえばきっとたどり着けるだろう。
彼を送り届けて、私も帰ろう。
気持ち良さそうに眠る彼の頭が車窓から私の肩に移った時、頬に触れた髪の香りを感じた時、顔が緩むのを止められなかった。
――『したい』だなんて言っておいて、寝ちゃうなんて。
――安心しきった顔しちゃって。
二人にとって今日は記念すべき始まりの日。その貴重な日の第一頁めに飾られるのがこのエピソードだなんて。
『可愛いなぁ、もう』
堪えきれずに吹き出した私。
バックミラー越しに、運転手さんが微笑んだのも見えた。
***
「雫ちゃん、おはよう!よく寝れた?」
扉を開けると、朝食の準備を手伝う彼女に声をかけられた。
「は、はい!泊まってしまってすみません」
「雫ちゃんは悪くないじゃない、ねぇ!」
「ええ!!」
「そうだよなぁ!」
彼女に同調する奥の二人。
「駄々こねた豊が離れなかったんだもの」
そう笑いながら携帯を操作し、動画を再生させた彼女。そこには昨日の彼がはっきりと保存されていた。
『やーだ』
玄関先に座り込んでしまうほど酔いが回っているのに私の手をがっちり掴み離さない彼。
『ちょっと柏木!……すみません!こんなに飲ませてしまって……』
出迎えた彼の家族に慌てる私の声。
『豊!高松さん帰るからね!』
『いやだ!』
彼の耳もとで声を張り上げるお姉さんと目を閉じたまま駄々をこねた彼の姿。
『あー完全に出来上がってる……わかったわかった!!ねぇ、高松さん――』
動画はそこで再生を終えたけれど、その続きはこうだった。
――今夜はこのまま泊まってって?――
まさか、付き合った初日に彼の実家にお泊まりするだなんて思ってもみなかった。
リビングのソファーに放っておかれた彼の傍でなぜか始まった二次会。
『豊がごめんなさいね?』
『雫ちゃん、これも美味しいのよ!』
『
私を囲んだ三人――柏木のご両親とお姉さん――は彼に負けず劣らずの強引さで私を引き留め、もてなした。
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