第4話 I had nothing to say.
電話をもらった翌日。
雨の中で久しぶりに帰った故郷は、やはりあまり変わってはいなかった。
変わっていたものがあるとすれば、当時の同級生や下級生たちが思っていた以上に現実を見た「大人」になっていたことだったり、当時は教師への反抗として露骨にされていた女子たちの下手なメイクがさすがに上手くなっていたりしたことくらいだろうか。
「あれ、
「高校でここ離れたから、もう7年ぶりくらいか?」
「ふ~ん、やっぱりちょっと老けたね!」
「大人っぽくなったって言えや」
「うわ~、相変わらず怖~っ」
久しぶりに会った……と言っても当時あまり絡まなかったのだろう、対して記憶にも残っていない同級生がテンション高く絡んでくるのを受け流しながら、今回のことを教えてくれた
程なくして、中学時代から変わらない肥えた体を汗まみれにしてタオルを使っている栗原の姿が目に入る。俺に気付いたようで、「お~い!」とこれまた当時と変わらない陽気さで話しかけてきた。
小走りするには重そうな体がすぐ傍に寄ってくる。
「
「来ちゃ悪かったか?」
「いやいやいや! 違うって、ただ意外だなって」
「意外?」
「だって沢上、
何の悪気もなさそうなその言葉に、少しだけ胸がざわつく。ただ、そこで何も返さなくなるのは不自然に思われかねないので、「……さぁな」とだけ吐く。
少しだけ首を傾げた栗原だったが、すぐに他の同級生に呼ばれてそっちへ行った。何でも、数珠を忘れたとかそんな声が聞こえてきた。
宇津美さんのこと嫌いだったろ?
……そんなの、言うまでもない。嫌いだった。
でも、どうしてか彼女の死の知らせは、胸をざわつかせた。ちょうど、今栗原からかけられた言葉のように。
桜が咲き誇る中学2年生の春。
俺と奈留島、栗原が所属していたバンド「クロノスタシス」に転機が訪れた。
昨年の学園祭は市民にも開かれたものだったから、きっと多くの小学生たちも来て、そこで催されていたものを見ていたのだろう。もちろん、俺たち「クロノスタシス」の初ライブも。
だからか、翌年の入学生のかなりの数が俺たちのライブへの加入を希望してくれていた。
といっても、当時の俺にはその年頃特有の謎の傲慢さがあり、「俺たちのバンドに加わりたいなら、やっぱそれなりに上手いやつじゃないとな」なんてことを平気で言ったりしてしまっていた。
しかも、顧問が適当なやつだったこともあり、入部審査なんてものも俺たちで勝手に企画できてしまっていたから始末に負えない。
もちろん、公平を期すために審査員は俺、奈留島、栗原、そして中1の冬にメンバー募集で加入した新しいキーボード担当の
「……何か、新メンバーになれるやつ少なくねぇ?」
「それは
「奈留島はそうやってちょっと甘いからな~。栗原は、何だかんだ女子に甘いし。スケベ過ぎんだろ」
「い、いやいや、いいじゃないか女子! 花があったほうがいいって!」
そんなバカみたいなやり取りをしながら、その日の最後の希望者を呼んだ。
「×〇小学校から来ました、
……出た、こういう自分に自信がありすぎるタイプ。俺は自分のことは棚に上げてそう思っていた。正直その手のセリフはかなりの希望者が言っていた。で、そのほとんどが普通に下手だった。
だから吉田川もそんな調子なのだろうと思っていた。
一応、と思って聴いてみたギターは、当時の、いや今の俺でも足下にも及ばないのではないかというくらいに上手かった。
いつも使っているギターから、こんな音が出るのかと、こんなに惹きつけられる音が出せる物だったのかと、思わず感動すら覚えた。もちろん、満場一致で吉田川の「クロノスタシス」加入は決まった。
吉田川を加えた「クロノスタシス」では、もちろんメインのギターは吉田川になった。当時の俺にも、技術の差はわかっていた。どうやら親父さんが元ギタリストだったらしい吉田川は、加入してからも、子どもの趣味程度の延長だった(ということを思い知らされた)「クロノスタシス」を存分に引っ張ってくれた。
俺はというと、バンドのリーダーとして嬉しく思いながらも、やはり複雑な気持ちを持たずにはいられなかった。
正直、何度も練習を休もうかとも思ったし、実際それ以前よりも身が入らなくなっていたのも間違いなかった。
吉田川がいるんだから、俺は要らなくねぇか?
喉から出そうになった言葉をどうにか抑えて、練習に励んだ。才能も経験も吉田川の方があるのだ、せめて練習しなくてどうするんだ、と。そういう刺激を受けた結果、俺のギターも少しだけマシになった。
ただ、当時の俺には吉田川の加入以外にも練習だけに集中できなくなってきた理由があった。
「なぁ、奈留島。お前去年ここまでやってくれてたのか?」
「うん……。まぁ、一応正規の手順だけどね。もし大変だったら僕がやるよ?」
「いや、いい。お前にはもっと練習しててほしいし」
「そっか、辛くなったら言ってね」
「おぉ」
正直、俺にはイベント参加だのそういうことに関する働きかけみたいなものがあまり向いていなかったらしい。そもそも生徒会を通さなくてはいけないという時点で気が滅入りそうだった。
当時の生徒会では、前年の秋に生徒会役員になってからもマジメで明るく、みんなにお優しい聖人君子じみた優等生をやっていた宇津美が順当に(?)生徒会長になっていた。奈留島たちが仲良くやっているので俺もそういうフリはしていたが、1年以上経ってもやはりあいつのことは好きになれそうになかった。
で、そんな宇津美との打ち合わせがあったり(生徒会を訪ねても大体宇津美1人だったのだ)、書類を書く機会が多かったり、当時はわりと疲れていた。経験者としてアドバイスをくれたりした奈留島には本当に感謝しかない。
思えば、その辺りで気付けたことかも知れなかった。
そうして迎えた中2の秋、喧騒の残滓が漂うその教室で、俺は心に抜けない
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