第3話 Voices in the past
「あぁ、
「そっか、わかった。あ、今大丈夫だったか? 都合考えないで電話しちまった」
『大丈夫だよ、今は空いてるから。でも、確かに電話だと危ないこともあるかもね』
そう軽く笑ってから、急に黙って。
『ねぇ、
急にこっちの心配をし始めた。奈留島の方が俺より忙しかったよな、って心配したのはこっちだってのに。
「あ? あぁ、俺は平気だけど……」
『……、そっか。うん。ならいいんだ! じゃあね』
「おぉ、またな!」
妙に歯切れの悪い言い方で電話を切った奈留島。何だろう、やっぱり今はちょっと都合悪かったのか……? まぁ、いいんだ。電話切った直後に『挨拶とかちゃんとするんだよ!』というメッセージを送ってくるようなやつのことは心配することないんだ。
何だあいつ、俺のオカンかなにかか?
スマホをポケットにしまって、あと僅かになった家路を歩く。歩いているすぐ脇を、バイクに乗ってイキがったガキが数人、何が楽しいのかバカみたいに高笑いしながら通り抜けていった。もうすっかり暗くなった道に、テールライトの赤が鮮明に映えている。
事故っても知らねぇぞ?とどうでもいい
「明後日か……」
まぁ、俺には別に都合の悪い日なんてねぇけど。
何にせよ、言えることは1つ。数年ぶりの帰郷は、同級生の葬儀に出るためだったということだ。
事件が起きたのは、中1の秋がそろそろ迫ろうという頃。俺はそのとき、本気で後悔した。もう少し早く決断できていれば、もっと違う結果が待っていたに違いないのに。どうして、言われた時すぐに実行しなかったのか。
泣き崩れてもおかしくなかった状況にも関わらずそうしなかったのは、ただ意地だったのだろう。
「ねぇ、幸多。何を悲観しているのかは知らないけど、ここは素直に宇津美さんをお祝いしてあげようよ」
「そんなん、できるかよ……」
「せっかく生徒会役員になったっていうんだからさ」
「ってことは、俺はあいつのいる場所に許可求めるわけだろ?」
「だから学園祭の出演許可早めに取りなよ?って言ったのに……」
呆れたような奈留島の声を、今でも覚えている。
そう、当時の俺は失念していたのだ。毎年2学期に生徒会選挙があるらしいということを。もちろん、俺は票を別のやつに入れたはずだ。誰でもいいが、宇津美が生徒会役員になるとかはとにかく気に食わなかったはずなので、絶対に他のやつに票を入れたはず。
そんな抵抗も虚しく、それなりに立候補していたはずの生徒たちの中から、生徒会役員(確か4,5人くらいだったはず)の1人に宇津美は選ばれてしまったのだ。
その時に発せられた奈留島の言葉が、突き刺さったのが事件の内容だ。
「生徒会役員がクラスメイトなら、許可取るのもちょっと楽になるかな、とか思ってさ!」
……そういうことなのである。
とはいえ、もちろん背に腹は変えられない。
学祭で「クロノスタシス」が曲を披露する場の為なら、俺らの歌をこの学校に届ける為なら……! そんな気持ちでその日のうちに宇津美に学園祭出演の話を持ちかけたところ。
「え、もう今年の出演募集終わってるけど……」
あの宇津美に。笑顔を絶やさず、いつも明るい「いい子ちゃん」の宇津美に、困った顔でそう返されてしまったのである。今思えば、あの顔もわりと貴重なショットだったかも知れないな。当時の俺にとっては笑えるような事態ではなかったが。
「はぁぁぁぁぁ!!?」
だから、思わず半ギレになってしまった。
まぁ、その後「あ、でももしかしたら枠とか空いてるかも知れないから!」と上層部に掛け合ってくれたことには、たぶん今なら素直に感謝できるかも知れない。当時の俺がどんな返事をしたかは覚えていない。
「枠作れたよ!!」
そんな、本気で嬉しそうに見えてしまう笑顔だけは覚えているけれど。
でも、「今度からはもっと早めに言ってね! わりと大変だったんだから」という余計な言葉には、やっぱり俺たちが相容れないものなんだな、と感じたものだったが。
結果から言えば、学園祭で
コンディションを合わせていたこともあるが、奈留島のベースも、栗原のドラムも、この年の冬に退部してしまった
盛況の中で終わった学園祭ライブの余波からか、クリスマスイベントでも演奏してほしいなんていうオファーも来たりした。宇津美から伝えられたことだったが、内容が内容だっただけに思わずテンション高く二つ返事で応じてしまい、後で奈留島たちから妙に冷やかされた。
因みにそのクリスマス会では、奈留島の「ちょっとバラード調にしてみない?」という提案でバラードを歌うことになった。
既に曲もできている状態で言われたって、反対なんてできないし……と歌ったそれは、あくまでロックバンドなんだと主張したかった俺の心境と裏腹に大好評だった。ああだこうだ言ったけど、俺もそれについてはとても気持ちが良かった。
キーボードをやっていた赤崎が遠くに転校して。
新しいメンバー募集で入ってきた
卒業式では宇津美が何が悲しいのか号泣しながら読み上げた送辞が教師陣や卒業生の涙を誘い。
そんな感じで黙したままの時間が流れて、季節は春。
今でも忘れられない年が、幕を開けることになる。
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