第2話 Chronostasis
中学校時代、少しの間だけ付き合いのあっただけの、ただの同級生程度のやつだった。それなのに、その報せを聞いてから妙に気持ちが落ち着かない。
眩しいネオンライトも、通りすがりの車から流れてくる騒がしい音楽も、何だか妙に遠い。通いつめているゲーセンの裏通りで溜まっているいかにも夢もなさそうで、することもなさそうなやつらを見るといつもなら安心するのに、今日はそんな気分にはなれない。
奇妙に落ち着かない気持ちを抱えながら、家まで歩く。
誘蛾灯に寄って行った虫が焼かれる様子が、今日はやけに目について不快だったから、俺は少しだけ下を向いて、家路を急いだ。
出会ったその瞬間に、宇津美とは絶対に合わないと確信した中学時代の俺だったが、それでも全く宇津美と関わらざるをえないことはわりとあった。
というのも、宇津美は第一印象から「なりそうだ」と思われていた予想通り、ほぼ満場一致でクラス委員長になったからである。いや、それ自体は別に理由にはならないだろうが、宇津美がなったのは、「とんでもなく責任感の強いクラス委員長」だった。
本気なのか周囲の受けを狙っていたのか、クラスのみんなを1つにするだとかそんなことをのたまい、それを実際にやろうとしていた宇津美にとって、彼女から距離をとっていた俺はきっと格好の餌食だった。
『
気を抜くと、能天気というか無神経というか、どんなときでもその嘘みたいに明るい調子を崩さなかったあいつの声音を思い出す。
本当に、どんなときでも宇津美は「宇津美」のままだった。
今考えれば、たぶんまた違う答えがあったのだろう、だけど、当時の俺はそんなあいつのことをただ純粋に気持ちが悪いと思った。だから、俺の方は更に距離をとりたがり、そんな俺を「孤立」させないために、宇津美は更に俺に構ってきた。
ただ、誰に対してもそういう態度だったから別に俺と宇津美の関係がどうだとかそういう噂が立つことは幸いにしてなく。そして、宇津美の方はというと、順当にクラスの人気者の立ち位置を確保していた。
要は、宇津美を中心にクラスがまとまっていたということだろうか。
真面目で一生懸命で、それでいて性格も明るい。そんなやつだから、あっという間にクラスどころか学年中の人気者になっていった。
とはいっても、別に俺が孤立しがちだったかというとそうでもない。小学校時代からつるんでいた
入学直後に、当時一部の間で話題になっていたロックバンドに憧れた俺が周囲に声をかけて組んだバンドだったが、夏休みが近付く頃にはまぁまぁ形になってきていた……もちろん、当時の俺にとっての話だが。
で、俺には目標があった。
「よし、これで今年の学祭でゲリラライブやってやれるな!!」
当時組んでいたバンド「クロノスタシス」でデビューする。その前哨戦として、まずは中学校でファンを増やして回る。そんな目標だ。
俺が通っていた中学校はイベントごとが多かった。だから、そこで歌っていけば「クロノスタシス」はどんどんメジャーになっていく、そんなことを確信していたのだ。
夏休み前で形にできたら、秋のイベントで曲を決めて歌える。そんな風に息巻く俺を落ち着かせるのは、いつもベースを買って出てくれた奈留島の役回りで。
「待って
「あ? 何でだよ奈留島」
「こういうのって、一応許可取んないと。せっかくいい演奏しても、いきなりやったらみんなちゃんと聴いてくれないよ?」
「ん……、そういうもんか?」
「そういうもんだよ!」
奈留島の言葉には、昔から説得力があった。普段穏やかでゆるくてふわふわした雰囲気なのに反して、言うべきことはきっちり言うタイプだ。だから、俺はほかの誰のことも信用できなくなった時期でも、奈留島の言葉は素直に受け入れることができた。もちろん、この時も。
「わかった……、時期が近くなったらな」
「うん、よかった!」
で、横から気楽そうな声でどうでもいいような口を挟むのがドラムの栗原だった。まぁ、だからこそバンドのムードメーカーになっていたのだが。
「それにしても沢上って凄ぇよな~、形しかなかった軽音部を復活させたんだもんな~!」
「部活じゃねぇ、バンドだ! 軽音部じゃなくてクロノスタシスだから!」
「……うん? あぁ、そっか。ごめんごめん!」
「わかりゃいいけどよ……」
そんなやり取りを続けながら、夏休みも練習漬けになり。
順調に見えていた俺たちのバンド活動に1つの事件が起こったのは、吹き抜ける風にまだ夏の気配が残っている2学期初め頃のことだった。
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