エピローグ

第34話 それぞれの、旅の終わり

この数百年で色んなことがありました。何から話そうかしら。


碧の友人と夫婦になった豊穣神は、今も夫にべたべたしては「改宗するよ」って言われたりしてます。あの子、懲りないみたいね。

覚えているかしら、石造りの小さな集合住宅の3階で暮らしていた老婦人。身寄りのない彼女は、ある事情で棄教しているの。だから神族や教団は苦手なのね。

「あなたね。いくら親切でも、他人の下の世話までしませんよ」

「私は家族だと思っていますから」

「あなた、神官でしょ? 隠さなくていいのよ」

「ううん、私は信仰を持っていませんよ?(だって豊穣神自身だもん)」

「変わった子だねえ。独りで逝くつもりだったけれど、

 最後は誰かの手を借りることになったわね」

「それはきっと私も同じです。気になさらないで」


こうして、顔見知りの村娘として看取って埋葬しました。

叔父様(末の神)の教団長が貧民街の対応に力を入れたように、豊穣神は身寄りのない人達を独りで逝かせないように、教団員達に指示を出したの。

神族としての働きに問題は無いけれど、妻としての彼女の様子は、教団員に見せられないわね。



碧の遺した強すぎる三姉妹いるじゃない? モンスターにとっての新天地である『世界』に人の世の価値観は持ち込まないけれど、天災みたいな出来事は必要でしょ。私達の世界も邪神やモンスターがいたから、発展した部分はあるし。

だからね。たまに向こうの世界へ入っては、思いっきり羽根を伸ばしてくれています。たまに負けることもあるから、やり甲斐あるんですって。


普段は、末の神の教団長を三姉妹で担当しています。

次女「先代の教団長さんはお父さんを部下にしたかったんでしょ」

長女「まあ、私達が引き継いだから、いいんじゃない?」

三女「お姉ちゃん達、私ちょっと、向こうの世界で暴れてきていい?」

長女「え、あんたの番だっけ?」

三女「なんか血がたぎっちゃって」

  「「じゃ、仕方ないわね」」



元教団長は冒険者には戻りませんでした。孤児院で育てた子達とのんびり過ごしてます。

「今、ばあちゃんって呼んだのはどいつだい?」

「だって、お母さんのお母さんでしょ?」

「確かにそうだけど、私はまだ独身なんだけどねえ」

「お母さんが『母様』って呼ぶのに、私は『お姉ちゃん』て呼ぶの?」

「ひ孫とか玄孫とか、もう収拾付かない……」

「とにかく大好き」

「私もだよ」


この時代に、貧民街はもうありません。行き場のない人が一時宿泊する施設があるだけです。少しだけ社会が成熟したでしょ?



主神は「7柱は多すぎる。子らが成熟したのだから、私は世界の外へ去りましょう」って言い出して、彼の教団を解散しました。豊穣神と叔父様(末の神)の教団が吸収したので、最大教団は豊穣神の教団になったわね。


意外だったのは、お母様とお父様です。「真朱も育ったし、あなたもきちんと大人になったから、私達も世界の外へ去ります」「あまり真朱を困らせるんじんゃないぞ?」って、世界の外へ出ることを選びました。

寂しいから引き止めたんですけど、両親の決意は固かったです。


叔父様は7柱が4柱に減って、しかも美の神はモンスター達の新天地である『世界』の管理者をやってるから、実質3人で回すことになるじゃない? うっかりすると、仕事しすぎるのよね。そのあたり、叡智の女神はバランスの取り方上手いんですけど、叔父様は真面目すぎるのかな。

「あなた。ミニ末の神君がぐったりしてます。働きすぎよ」

「ああ、もうそんなでしたか」


妻の陽の君が、こうやって見守ってくれるから、甘えてる面もありそうね。


「私に指摘される前に、過労に気づけなかったから、

 やっぱり世界滅ぼしちゃいません?」

「いやいやいや。君は本当に根こそぎ行こうとする人だね」

「夫婦になって数百年経ちますし、そろそろ赤ちゃんをって思うんですけど」

「ええ」

「私とあなたの子って半神で済むのよね? 邪神になったりするかしら」

「思想的には、君は邪神寄りだよね」

「自分で言うのはともかく、夫に言われるとムカつくわよね」

「そんな怖い顔しなくても。理不尽です」

「でも、こういうのがお好きなんでしょ?」

「まあ、癖になっていることは認めます」


――叔父様は、声フェチ? な他に、変な癖が色々増えてるみたい。そろそろ他人の振りしようかな。



小町の母様は、相変わらず夫の竜族の族長と仲良しです。碧の妻であるサッキュバス(姉)が、小町の母様の宿屋の女将を村の女衆と交代でやるようになりました。

旧王都や領主の街の湖畔支店等は、他のサッキュバスに譲ったみたい。



山吹と朱は、鉄棍会議を退きました。長命種だから、影響力が大きすぎるじゃない?

山吹は元教団長と一緒に暮らしています。

朱は、妻のサッキュバス(妹)と各地を旅をしていますね。いつか、碧夫婦が歩いたように、そして歌の母様と精霊王夫婦が歩いたように。



歌の母様は、私が大人になったし真朱もいるし、夫と暮らしたいと、精霊界へ精霊王妃として迎えられました。うちの両親にしろ、歌の母様にしろ、ずっといてくれると思っていたから、正直ショックでした。

そういうの分かるから、華の母様は今も村に残っていてくれます。



唯一の国王(名誉職)である、うちの村の村長は、たまに儀式に引っ張り出されたりしていますけれど、村の子に勉強教えたり、村長としての仕事を続けています。

真朱は色んな仕事はあっても、村長と一緒に村の子に勉強教える時間が一番好きみたい。

村の動物達も、元気よ。

ご先祖様スケルトン達も、元気っていっていいのかな? のんびりしたり、気が向いたら村の名産品作ったりしています。



火の君と弟達(水の君・土の君)は、精霊王夫婦の仕事を引き継いで、各地の自然災害を精霊に説明して、被害を軽減していたじゃない? 真朱は定義も何も、精霊達と情報を『同期』でやりとりできるじゃない? ハーフエルフである彼らには出来ないことだけど、真朱は精霊としての視点も持っているから、どう伝えればより通じるのかが整理されました。だいぶ仕事がしやすくなったみたいです。

それに、彼らが歌えば精霊王とその妻(歌姫)も相談に乗りますから、これまでより仕事しやすいみたいですね。



人がモンスターに歩み寄ることはまだ出来ないけれど、人の世の仕組みを押し付けずに、モンスター達が、のんびりしたい子はそのように、私達から見たら醜悪で邪悪に振る舞いたい子達はそのように、暮らせる『世界』は美の神が管理しているし、真朱と私も見守っています。

正直、私達が理解しにくいくらい進歩した『世界』も7つの世界の内には出てきました。ぜったいに分かり合えないし、友達にもなりたくない存在が、精霊界から力を借りる為に美しい『歌』を歌ったりするの。

ゾッとして聴き惚れてしまうんだけど、美の神に言わせると、それは分かりやすい「美」の形なんですって。彼は何を見ているのかしらね。



私は真朱とお祖父様の洞穴を組みかえた書斎へ伺いました。

母神 「ねえイルカちゃん」

イルカ「はい」

母神 「一通りすべきことを行ったら、暇になっちゃったのよお」

イルカ「たいへんです。母神様が、真朱さんみたいなことを仰っています」

真朱 「私は、ゆっくり過ごす楽しみも覚えたんですけどね……」

賢者 「なんじゃ『同期』の副作用かの?」

母神 「え、それは無いと思うけど……」

賢者 「気のせいならいいんじゃ。用事ができるまで、ダラダラすればよかろ」

母神 「お祖父様は退屈なさらないの?」

賢者 「ワシはお前たちと見える世界が異なるからなあ。知らないことを

    理解し、魔法を研究するのも面白いし、村の子と遊んだり、

    村の衆の相談に乗ったり、たまに変な客も訪れるからなあ。

    わりと忙しい」

母神 「来客があるのは羨ましいかなあ。お祖父様は、骸骨村の賢者で

    国中の人に知られているものね。私は表に出るわけにいかないから」

賢者 「『賢者の孫娘』ということで、仕事振るぞ」

真朱 「だめです。母神様は、余裕を作っておいて頂かないと、

    何かあった時にすぐ対応できないですもの。

    ダラダラなさってください」


自立しろとか散らかった部屋を片付けろって言われてたのに、いざ自立したらこれよ。真朱の言ってることは正しいんだけど、釈然としないなあ。


まあ、誰かが泣いているよりも、私達が暇な方がいいよね。



fin.

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