第11話決まってるはずの答え
重い足を上げ、森を出る。
森を出た入り口付近に、ちょこんと北野さんが待っていた。
「……迷わなかったんですね」
「え、そういえば…迷ってない…」
近所のコンビニですらまともに帰れた事のない俺がこの森を迷わずに帰ってこれた。
こんな事一度もない。
その後も2人は一言も会話を交わす事なく、最後の休みの日は終わった。
家に着くなり、俺はすぐ自分のベッドで横たわる。
あぁ〜やっぱ自分の部屋っていいなぁ!
一生出たくない!この楽園を求めて生きて来たのだ!!
「……」
思う事は山ほどある…。
北野 美南…東雲 南雲…。
俺達の関係は偽物なのかな。
何気ない一言で人は変わる。
いや、変えられるんだ。
【ブゥゥゥゥッ】
机に置いていたスマホの着信音が鳴る。
とっさに俺はベッドから起き上がりスマホを取り出す。
もしかしたら北野さんからかもしれない。
何を期待しているんだ俺は。
話がしたいなら自分から声をかければ良いじゃないか?
でも今の俺にはとても彼女になんて声をかけて良いのかわからない。
そんな自分が情けない。
ちなみに着信の相手は担当編集からだった。
「はい、もしもし?」
『あぁ、東雲先生』
「はい?どうしました?」
声のトーンは低く最近よく聞く声だ。
てか、いつも担当との電話なんてお互いこんな感じで冷めきってる。
『後2週だ…』
「…!」
そうか、今日は連載会議…!
担当から『後2週』その意味は後2週間で、俺の漫画は連載終了という事だ。
俺は後2週間で自分の漫画を終わらせなくてはいけない。
『新連載が3本決まってな、そして終わる作品も…』
「3本終わるってことですか」
新連載が始まる本数が多ければ多いほど終わる作品も多くなる。
『あぁ…17位だからもしかしたら…と思ったが、結果はこうだ』
「まぁ…今生き延びても次はあったかわかりませんし…」
『よせよ、そんな事言うの』
「すいません…でも終わることには変わりないわけで」
『あぁ…とにかく。後2週間よろしく頼むぞ』
「はい…」
電話が終わると、スマホをベッドに投げ、俺も倒れこむ。
体は重いが、体を重くしているのは打ち切りになったからではない。
逆に終わって気分は楽になった…。
「かっこ悪りぃな、俺……」
相方の北野さんに打ち切りになったからこれからの事で色々話す事があるはずなのに。
言葉が出てこない。
新年会パーティーであんな偉そうな事言っておいてこれだもんなぁ…。
そうだ、『葛城ショーマ』あの人連載決まったのかな…?
入選したぐらいだ、相当面白い話を作ったんだろう、きっと今回の連載会議にだって回ったと思う。
(負けたよ…俺)
直接対決したわけでも殴り合いをしたわけでもないけど、敗北感しか得られない。
「『今の南雲君はわからない…』か…」
北野さんがあの森の中で言った言葉が俺の頭の中を走り回る。
俺は何がしたかったんだ…。
気落ちしてても始まらない。
時は止まってくれない、何もしてないのに地球は刻々と時を刻んでいく。
地球は俺で回っていないのだ。
「…明日学校じゃん」
連休は最終日、連載が終わろうと明日は来る。
学校の準備をしながら、考える。
北野さんにとって俺はなんなんだ?ただの漫画の相方?学校の同級生?
打ち切りなんかよりも、北野さんの事が頭から離れなかった。
俺は北野さんと何がしたかったんだ…?
俺の本物ってなんだ…。
時間は朝の8時いつもなら、もうとっくに学校に向かってる時間だ。
だが、北野さんが俺に家に迎えに来ることはなかった。
さすがにこのまま待っていると俺が遅刻するので1人で向かう事にした。
教室にたどり着くなり、時間は8時40分朝のホームルームにはギリギリ間に合った。
「おっす!南雲ー!珍しく1人で登校じゃん?」
朝一番の挨拶が西園なのはいつもの事。
「おっす、まぁな…」
実は北野さんは休みなんじゃないか?
とか思ったけど、俺より先に教室で同級生の女子達と楽しく会話していた。
「………」
入り口付近に立っていた俺と北野さんの目が合うが、すぐに逸らされる。
「なんか、あった?」
1人で登校してきた俺、そして気まずい空気の俺と北野さんの雰囲気。
それを察したのか西園が俺に質問してくる。
「…いや、なにもないよ」
自然に嘘をつく。
慣れたものだ、あまり嘘は良くない、だが西園に言っても意味がないだろ?
そう判断した、だってこれは俺の問題のはずだから、答えるのも俺だ。
「…そうか、それなら良いけど。なにか悩みがあるなら言えよ?答えを出すのはお前自身だけど、答えを導くのはお前だけじゃないんだぞ?」
「…!」
何気ない西園一言は今の俺にとって突き刺さるものがあった。
なかなか言ってくれるじゃないか西園…。
「ほーら、席に着けホームルームだぞ」
担任が教室に入って来るとともに生徒達は自分の席に着く。
俺と北野さんの席は隣同士だ。
だが、目も合わせる事なく、無言のまま席に着く。
その様子を西園が伺ってるのは、俺の視線から確認できた。
やはり西園なりに何か察したのだろう。
いるよな、いつもは鈍感なのにこんな時だけやたら敏感になる奴って。
そう言えば、後2週で連載終わりだけど、それと同時に春休みか…。
俺進級できるのかな?
「まぁ…ギリギリセーフってところかな」
「そうですか…」
ちょっと一安心、これで進級できない『お前は留年だ』なんて言われたらちょっと親に会わせる顔がない。
先生との話も終わり、教室に戻るそこにはもうほとんどの生徒が下校していて、残っていたのは数人だけだった。
そこに北野さんの姿はなかった。
いつもの待ち合わせの校門近くにも北野さんの姿はない。
先に帰ったのだろう。
(おい、1人で帰れないぞ俺…)
かと言ってここで1人棒立ちしてても帰れるわけもなく。
渋々1人で帰路につく。
「………嘘ぉ」
自分でもびっくり無意識に歩いてるうちに迷いもせずに家にたどり着いた。
何があった、俺の心に何があった…。
帰り着いた先は打ち切りだけじゃなかったと言うのか…!!
帰宅早々自分の部屋に戻り、着替えを済ませ後2週間で終わる自分の漫画の文章原作に取り掛かる。
「後2週でまとめるって…なかなか鬼畜だぞ…!」
詰まるかと思いきや、案外進みたった4時間ほどで2話分の話が完成した。
これを北野さんに送る。
だが、俺の送った先は北野さんではなく。
担当編集宛に送った。
担当編集から北野さんに向け送ってもらう事にした。
「このまま終わっちゃうのかな…」
漫画だけではなく、北野さんとの関係もこれで終わる気がした。
その後も隣に住んでる北野さんとは全くやり取りはする事なく、俺の漫画『System』は最終回(打ち切り)と言う形で幕を閉じた。
「春休みが終われば東雲先生は2年生になるのか…いやぁ歳だねぇ」
「人をまるで老後を迎えた年寄りみたいな言い方やめてください…」
連載が終わり、春休みを迎えた俺は。
これからに向けて担当編集と2人で編集部で打ち合わせをしていた。
ちなみに、来週から始まる新連載3作品の中に葛城ショーマの作品はなかった。
「それで、北野シンデレラと喧嘩でもした?」
「そんな子供じゃありません…」
「俺からしたら2人とも子供だ」
さっき俺を年寄りみたいな扱いしたろ!?
「ちなみに…葛城先生の作品はいつ連載されるんですか?新人賞入選って事は編集部も黙ってないんじゃないですか?」
「そうなんだが…」
「?」
「葛城先生は絵を付けてくれる人は北野シンデレラじゃないと漫画は作らないと言っているんだ」
そう言えば新年会パーティーの時もそんな事言ってたな…それに俺がやけにやって突っかかって。
「まぁ…いいんじゃないですか?北野さんだって今は連載持ってないんだし…」
俺に北野さんの仕事を止める権利なんてない。
俺の作品は打ち切り、葛城ショーマ先生の作品はこれからも未来があるだろ。
「だったら君からも言ってくれよ…彼女も彼女で頑固でな」
「…?」
「『私は東雲南雲先生の作品以外に絵を付ける気はありません』の1点ばりだよ」
「え…?」
俺は驚いた、だってそうだろ?ここ1ヶ月ぐらいまともに口聞いてないんだぜ?
それに、俺の作品は終わったばかり、それなのに…彼女は俺の作品以外描く気は無いと言うのか?
「惚れてるんだろ?君の作品に」
言葉が出なかった。
なんでこんな俺なんかの作品に思入れがあるんだよ…。
「あぁそれとな、北野シンデレラ先生からの伝言だ」
「…伝言?」
「『東雲先生、連載お疲れ様です。次の作品も期待してます』だとさ」
担当の似てない声真似はともかく。
彼女はこんな俺に今も期待してくれているって言うことなのか。
わからない…なんでこんな事。
「彼女の言葉の意味がわからないか?」
「えっ…?」
似てない声真似をしたふざけた顔から真剣な表情に変わった担当編集。
まるで俺の今思っている事がわかるかのように感じた。
「答えはもう、出てるんじゃないのか?」
「答え…?」
わからないさ、わからないからこんなに悩んでいるんだ。
「なら、ヒントを君に与えよう」
「ヒント…?」
そう言って、担当編集は1枚の紙を取り出した。
そこに書かれていた内容は。
「黄金文決定戦…?」
「あぁ、連載作家から新人まで参加可能な漫画原作者1番を決める大会だ」
「1番を決める大会…」
「これを取れば連載にも大きく近く。もちろん葛城ショーマ先生も出るぞ」
「…!!」
「もう一度書いてみたらどうだ?
見えたものはこの紙の文字だけじゃない。
大切な本物、それは自分の中にある。
自分の手で作り出せるものだと。
「はい!俺、やります!!」
そう、答えはもう決まっていた。
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