第5話邪魔者とラブコメ主人公

 客人2名様を俺の自慢はできない部屋に招き入れる。

 北野さんと2人っきりだと思ってたのに、とんだ邪魔が入ったものだ。


「で、何で西園がいるの…聞いてないけど」


 内心彼女も西園を連れて来る気は無かったのだろう、雰囲気で何となく察せた。


「いやーたまたま外で会ってね、そしたら南雲の勉強会するって言うじゃん!俺も行くしかないじゃん!?」


(おい、知ってるか?それストーカーって言うんだぞ)


 だいたい漫画のテンプレでは、西園こんな奴は邪魔になるだけなんだよなぁ。


「ま、まぁ西園さんは学年トップの学力ですし…」


 え、嘘でしょ、そのチャラい性格と容姿で学年トップなの?似合わないよやめた方が良いよ?

 それともそんなにうちの高校のレベル低いの?


「いや〜そう言われると照れるな〜ま、全て事実だけどね」


 いるんだよなぁ…学校に1人はこんな奴。

 まぁ、学校に行った事なんて小学校を抜けば、昨日の1回だけなんですけど。


「来てしまったものはしょうがない…学力トップなら心強い」


「おう!任せとけ!」


 しかし、現実は残酷だった。


「あははは!この漫画面白いな!!」


 だろ!その漫画俺の一押しなんだよ!

 ってちげーよ!

 俺の予想は的中、こんな奴は勉強会に参加しても役に立たないのだ。

 学力トップだろうが、オタクだろうが、ゲーマーだろうが、イケメンだろうが!


「あのなぁ…お前勉強できるんだろ?ここ教えてくれよ…」


「俺教えるの下手くそだから」


(さっきの台詞はなんだ!今すぐ俺の部屋から出ていけこの野郎!!!)


 昨日一生懸命に片付けた漫画の山を西園は問答無用に読み漁る。

 ちゃんと本棚に戻せよ…。


「西園さんって授業中もいつも寝てますよね?よく学力トップを維持できますね?」


「勉強なんかしなくても直感でテストなんか100点オールクリアだぜ!」


 おい、それなら今頃俺はこんなに苦しんでないぞ。

 こんな奴を天才と言うのだろうか…。


 まてよ…俺も漫画原作書いてる時はこんな感じだ、特にルールも知らずに適当に書いているだけで連載まであり着いた。


 俺って天才なんじゃね…!?


 しかし現実は甘くない…。


『今週の速報は…16位だ』


「………」


 勉強会のおかげか3日で課題のプリントの半分は終わった。

 だが…。


 今週の速報の順位は16位と落ち、一瞬で俺の感情は負の感情に落ちきった。


「えっと…それってだいぶやばい、ですよね?」


『あぁ…』


 そう、連載終了まっしぐらと言ったところか。

 ここまで順位が落ちると、もう順位を取り戻すのはだいぶ難しい。


 今週がラストチャンスと言った所。

 それなのに俺は…。


『そう言えば、今週の土曜日新人賞発表パーティーがあるんだ、連載作家の君も一応パーティーの参加権があるんだが、来るか?』


「え?パーティーですか…?」


 俺はそういったパーティーには一度も行ったことがない。

 送り迎えがしっかりしてくれるから、帰り道の心配はないんだが。


 今はとてもパーティーなんて行く気分になれない。

 まだ連載終了を宣告されてないが、多分もう終わりだ。

 そして、おそらく連載が終われば作家が参加できるパーティーの参加資格は無くなるだろう。


 事実上の最後のパーティーのお誘いだ。


「えーっと、まだ学校の課題とか終わってないんで…考えさせてください…」


『そうか、わかった。それじゃまた本ちゃんの時連絡するよ』


「はい、失礼します」


 担当の方も気分は落ちているのだろう。

 お互いに何も語りもせずに通話はそこで終わり。


「はぁぁぁぁあ…」


 どっと出るため息。

 どこか体が重く心の中で重りをかけてるみたいな感じ。


 感じるのは俺の話を漫画にしてくれている『北野シンデレラ』に対しての罪悪感。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 どこか自分の中で『北野シンデレラ』を隣の北野さんとダブらせてる。


 なんだろ、どこか雰囲気が似てるんだ、1度しか会ったことないけど…。


『北野シンデレラ』と『北野美南きたのみなみ』そう、彼女のフルネームは『北野 美南』出席確認の時に呼ばれた名前で確認した。


 自分から名前を聞き出す勇気がないので、出席確認の時から情報を聞き出すのだ。

 名前泥棒である。


 いや、盗んでないから泥棒ではない。


 よくわからない2人の北野をダブらせながら、自分の意識はどんどん途絶えていく。


「………はっ!」


 時計の針は7時っ!

 学校っ!何も準備してない!!

 寝てた!!やべぇ!!


 ドタドタと超高速で準備をする、こんな生活ももう慣れてきた。

 慣れって怖い…。

 学校に行くことが当たり前になっている。


「かーさん!飯いらない!コンビニで何か買って行くわ!」


 グッといつものように母親が合図して来る。

 それに合わせて俺も合図を返す。

 このやり取りだけは相変わらず変わらない、だけど俺が学校に行かなかったらこの会話は決して生まれる事はないだろう。


 家で食べている暇はない、多分食べている間に迎えがきて1番中途半端になる。

 中途半端が地味に嫌いな自分。


【ピンポーン】


 いつものように家のチャイムが鳴る。

 いつもより体感早く感じた。

 多分それは自分が急いでいるからだと思う。


「はいはーい!!!」


 制服に着替え、準備を済ませ、朝飯はまだ食べてないけど何とかなる!

 ネクタイは行く途中に何とかする!

 カバンを肩にかけ、左手にネクタイを持ち家の扉を勢いよく開ける。


 その扉の先で待っていたのはいつもの笑顔が素敵な彼女だった。


「南雲君、おはよ!」


「おはよ…ぉっ!?」


 挨拶を交わすと同時に、勢いよく飛び出したせいか足元がフラつく。


「…へっ!?」


 飛び出してきた俺に彼女はびっくりしたのか驚いた顔をした。

 それまでは俺も確認できた、だが1番びっくりしているのは自分だという事。


 そしてバランスが取れなくなり、前かがみに倒れこむ。


 そう、目の前に朝から俺を迎えにきてくれた北野さんがいるというのに、俺の体はその北野さんの胸にめがけて飛び込んだ。


【ドシィィィンッ!!】


『おはよう!』と笑顔で挨拶を交わしてくれた所までは覚えている。

 それ以降は…わからん…そして今の状況は…。


「……んっ!?」


 俺は倒れこんだ衝撃で目を閉じていて、周囲を確認できない、だが、わかることが2つほどある。


 右手に当たるこの柔らかい感触。

 触ったことないけど多分、北野さんの…む…む…。


 そして、この唇の感触…!!


 俺は恐る恐る目を開ける。


 そして俺が目視したのは、大きくドアップした北野さんの顔、そして俺の予感は的中していた。


 俺の右手は北野さんの胸を触っていて、さらに俺の唇は北野さんの唇と接触していて…。


 状況がわかって、俺はとっさに北野さんから離れる。


「ご、ごめん!!!」


「………」


 北野さんは顔を赤らめていて、俺と目を合わせてくれない。

 前までは俺が目をそらしていたのに、今は北野さんが目をそらしている。


 そして俺は思った。


 ファーストキスがこの人で良かったと。

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