第4話隣人は覗き魔

「…ふんす!」


 片付けよーし!準備はOK!いつでもばっちこい!

 本日は土曜日で学校は休み、昨日の北野さんからの提案『勉強会をしよう!』との事で俺は自分の部屋の片付けを済ませた。


 彼女の部屋での勉強会は許されない、いや、自分が許さない(絶対集中できないから!)いや、そこまで集中する気はないが…。


 て、事で自分の部屋を提供。

 って言ったのはいいもの、帰って見てびっくり、あれ俺の部屋ってこんなに汚かったっけ?


 床には漫画本や食べ終わったお菓子のゴミで散乱。

 とても客人(女の子)を招き入れられるほどの部屋じゃない。


 2時間の格闘の末、無事部屋の片付けを完了させた俺はそれだけで満足感に浸っていた。


【コンコン】


「…?」


 窓から何か叩く音が聞こえ、俺の部屋の窓を見るため振り返った。


 振り返った窓の先に見えた姿は、まぁよく知る人物である、なお明日この部屋に来客する予定の彼女が笑顔で自分の家から、俺の部屋を覗いていた。


(おい、まるで今までの俺の行動全部見たとか言わないよな…)


 恐る恐る俺は窓を開け、彼女の対応に応じる。


「片付けは終わりました?」


(見られた…ぁ)


 そう、完全に忘れていた彼女は俺の家の隣に住んでいる、様子を確認することなんて簡単じゃないか…!


 この時俺は初めてカーテンの存在の重要性に気づくのだった。


「えぇ…まぁ一応(?)」


 自慢はできないが客人を招き入れる事ぐらいはできる部屋になった、はず。


「2時間ぐらい格闘してましたもんね、逆に男の人の部屋ってそんなに散らかってるの?って疑問に思いました」


 この人は俺に恥をかかせる天才なのかな?


「い、いやぁ…あまりにも散らかってたら…ねぇ?」


 視線を彼女から自分の部屋に目をそらしながら苦笑いをしながら話す事しかできない自分が辛い…。


「ま、まぁ!とにかく明日はお邪魔しますね!少しはプリント進めておくんですよ!時間ないんですから!」


「あぁ…」


 俺の気持ちは知らずに彼女は笑顔で手を振りながら自分の部屋の窓を閉め、ちょっとしたお隣の会話はここで終了する。


 俺の心は真っ赤だぜ…。


 てか、プリントの全教科書いてある内容全て英語にしか見えないぐらい理解できてない、今の俺に何ができるっていうんだ。


 ビシッとカーテンを閉め、ベッドで横になる。

 何か…する事ないかな…(勉強以外で)

 ぼけーっとしながら考える。


 思いつくのは隣の彼女の顔だけ。

 ふっ、馬鹿らしい…!!!


「……あ!」


「あぁぁぁ!!今週の原稿!!まだ終わってねぇ!!!!!!」


 忘れてはいけない、漫画原稿。

 そして、さらに忘れてはいけない、今の俺の順位。


(やばいやばいやばいやばい!時間っ!)


 今の時間は18時40分、実際の原稿の締め切りは水曜日だ、だから時間はある。

 だが、俺の場合相方の『北野シンデレラ』に漫画にしてもらう必要がある。


 そのため毎週金曜日の23時までに文章原作を北野シンデレラまでに送らなくてはいけない。


 ただでさえ順位が危ういのに、『まだ原稿できてませんテヘペロ♡』なんて言えるわけもなく!原稿を落としたらそれこそ終わり!!


 頭を絞れ!考えろ…!知恵を振り絞るんだ!この瞬間を大切に…!


【数時間後】


「や、やべぇ…」


 数時間経った今、原稿の約束の時間まで後1時間もない。

 しかし原稿用紙は真っ白。


 何も思いつかない…。

 いつもならサクサク進むはずの原稿が、何かが足止めしている。

 理由はわかっている、面白い話を考えなくてはいけないという、初めての事を考えさせられているからだ。


 え?じゃあ今までのどうやって原作を考えていたのか?って?

 そんなの知らないよ!自分がやりたいだけ、自分がやりたいようにやってたら連載できたんだもの!


 初めて考えさせられている状況がこれだ。

 今自分でわかっていることは、ただ1つ。

 絶対間に合わない…!!!


 ここで俺がやれる事は1つ。

 北野シンデレラにメールする…!!


「…えーっと」


 PCのメール画面に向かって唸る。

 文章を打つってだけで、手が止まる。


 待て待て!これは原作じゃない!ただの報告メールだ!うん、何も緊張する事じゃない。


「………」


 北野って名前を見ると隣の彼女の事を思い出す。

 この深夜だけど、まだ起きてるのかな…。

 そんな事を考えると手が止まる。


 いやいや!北野は北野でも、また別人!!

 うん。何を気にしている!東雲 南雲!


「あぁぁぁあ!くっそ!!」


(…あぁぁあ)


 何をするにしても変な感情が俺の邪魔をする。

 俺の指を止める、まるでここがお前の墓場だと訴えるかのように…。


「…と、とりあえずメール…報告メール…」


 コンビを組んで約1年、これが初めての北野シンデレラとのメールだ。


「えーっと『今週の文章原作少し遅れます。すいません…。明日までにはあげますので、よろしくお願いします。』これで、どうだ!!」


 まるでゲームの勇者が必殺技を使ったみたいな決め台詞。

 内容は謝罪文。


 おいらこんな勇者嫌だー。


「はぁぁ…」


 ただのメールでどっと疲れがのしかかってきた。


(今日は…寝れない…!)


【ピコーン】


 PCのメールの返事が届いた。

 …早くね?


『了解です、こちらは問題ないので、原作完成待ってます!』


「……い、いやこのメールに返信する必要ないだろ俺」


 思わず返ってきたメールに返信しようとした俺。

 何も返信する必要ないのにな、笑っちゃうぜ。


 よくあるだろ?SNSとかで既読つけたのに返信しないのはどうだろうか?みたいな。

 特に会話がそれで終了してるのに、やたらスタンプとか送っちゃうやつ!


「………」


 隣の家の電気はまだ付いてる。

 まだ起きてるんだ…。


 なんか気になってしまった。


「…っし!」


 何でか知らないが、自分の中で何かのスイッチが入り文章原作が進む進む。


 なぜさっきまであんなに悩んでたのか不思議なぐらい進んだ。


 そして北野シンデレラにメールを送った3時間後、時計の針は深夜3時を刺していた。


 そして俺の文章原作は完成した。


「……終わったぁぁあ」


 完成するまで気は引けず、ずっと集中しきっていた。

 こんな事は自分の中で初めて、そして自分の中で感じたことのない達成感が自分の中で埋め尽くされていた。


 魂が抜けきったみたいな感覚で、俺はベッドに倒れこんだ。


「もう4時か…今寝たら起きれる気がしない」


 明日の9時に北野さんが家に来る、5時間後。

 この調子だったら10時間は最低でも寝れる自信しかない。


 そこで何か眠気を吹っ飛ばしてくれるような事をしよう。

 刺激が…刺激が俺を求めてる!


 とりあえず廊下に出てキッチンに向かい、冷蔵庫を確認。

 一仕事終えたら腹が減った、何かないかと模索する。

 どうしよう、びっくりするほど何もない。

 こんな時のために買い物はしておけよ母さんよ!!


 ま、こんな状況になるなんて本人が1番びっくりですけどね!!


 チラッと目に入ったエナジードリンク。

 おそらく親父のだろう。


「すまん、俺的に緊急事態なんだ許せ親父よ」


 親父のエナジードリンクを手に取り、さらに棚に置いてあったカップ麺を確認。


(何だ、あるじゃないか最強のお供が!)


 しかもまるで生麺と自称するちょっとお高めのカップ麺。

 この最強タッグはまるで俺の一仕事を終えたご褒美だと解釈した、そうしないとやってられない。


 カップ麺にお湯を注ぎ、5分待機。

 あれ、何でキッチンで待機してるんだ、自分の部屋で食べようぜ!


 カップ麺とエナジードリンクを手に取り自分の部屋に戻る。

 そして、PCを確認するとメールが1通入ってた。


『原作確認しました!これでいきましょう!今から漫画にします!』


 北野シンデレラからのメールだった。

 まだ起きてたの貴女…。

 ま、人のこと言えませんけど。


「えーっと『お願いします!』っと、これでいいだろ」


 もう、こんな勇者は嫌だシリーズのネタは言いたくない、言う元気はない!


 至福のカップ麺を食べ、エナジードリンクの缶をプシュッと開ける。


 ゴクっと一杯。


「…くうぅ!!この瞬間のために俺は生きている!」


 眠気を吹き飛ばすようにエナジードリンクは俺の体に廻り込んで来る。

 翼を授けるとはこの事だろう!


 よくわからんキャッチコピーだが、今の俺にはわかるぞ!

 多分今しかわからないだろう!


 そして、時は流れ気づけば小鳥のさえずりが聞こえてくる朝の時間だ。


 勝手にカップ麺とエナジードリンクを消費した事が親にバレていちゃもんをつけられたのは言うまでもない。


 しょっぱい親だな!カップ麺とエナジードリンクだけじゃないか!


 徹夜明けの顔は酷いものだ。

 目の下にはクマができてるし、髪はボサボサじゃないですか。

 よく考えたらこれから勉強会が待ってるとなると、なかなか地獄だぞ。


【ピンポーン】


 家のチャイムが鳴り、俺は時間を確認する。

 時計の針はぴったり9時に刺していた。


【ガチャ】


 ドアを開け、来客を迎える。

 徹夜明けで俺の顔は酷い、まぁそんなの気にしてられない。

 だが、それと同じぐらい来客の顔もなかなか酷いものだった。


「あ、南雲君、おはよ…」


 来客は北野さん、言うまでもないだろ勉強会をしようと考案して来たのは彼女だ。

 彼女に勉強を教えてもらわないと俺はこの先の人生崖っぷちなのだから。


 しかし、北野さんはおそらく伊達だと思うが眼鏡かけていてその眼鏡の奥から見える瞳の下には、俺と同じように少し黒いクマが見えた。


(彼女も寝てないのか…?)


 そんな事より…。


「やっほー!南雲!」


(何で、西園こいつが俺の家にいるんだよ!!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る