第3話ヒーローじゃなくても主人公

 なんだかんだで時は進み放課後。


 コンコンと色々と本が乗せられている教師机を叩く俺の担任の先生。

 電話では何度か話したことがあったが、初対面だ。


「どうだ、これで学校に来る気になったか」


「やっぱり昨日の電話のアレは…彼女の事だったんですか…」


「いやぁたまたまさ」


 なにこの顔、絶対嘘だ、間違いない、この万年ぼっちの俺が言うんだ間違いない。


 まぁ担任の顔はさぞご機嫌そうだ、今まで不登校だった奴が唐突に登校してきたんだからな。


 その笑顔を当てつけるかのように、大量のプリントを俺に手渡す。


「え…なにこれ」


 軽く30枚…いや、40枚はあるだろう。

 どっさりとしたプリント、まさかとか言わないがこれ全部やれと言うのか?


「なにって、プリントだぞ?」


「いや、そんなの見たらわかりますよ、さすがに俺もプリントがわからないほど馬鹿ではないですって」


 そう、プリントで思い出した、今日の授業のお話だ。

 まぁ不登校の生徒が登校してきたんだ、授業ではやたら問題を当てられたよ。

 もちろん俺は答えられるわけがなかろう!


 これまで軽く5.6年は引きこもりニート万歳!生活を送ってきた俺の学力は小学生レベル。

 高校生の問題なんか解けるわけがなかろう。


 次の登校には俺のあだ名は『ポンコツ脳内小学生』と言われて他のクラスメイトから嘲笑われるだろう(特に男子!)


「いやぁ、南雲。お前はテストを受けてないだろ?その埋め合わせがそのプリントだ」


「いや、いくらなんでも多すぎじゃないですかね、再テストとか…」


「うちの学校は再テストは赤点とった奴だけだ、そのプリントだけでテストの分単位を与えてやると言っているんだ。こんな学校他にはないぞ」


「ちなみにこれいつまでにやってくればいいんですか…」


 さすがに明日とか言わないよね、俺だって暇じゃないのよ!!


「今月までだ」


 ふと、スマホを取り出し日時を確認する。

 1月17日の16時だ。


 うん…後12日ってとこか…。

 プリントの枚数は42枚、タイムリミットまであと12日。

 1日何枚このプリントやらないといけないの…僕の学力小学生ですよ、もう点数とかどうでもいいんで白紙で提出して良いですかね?

 よし、そうしよう。


「ちなみに30点以下の場合もう一回やってもらうからな?」


(ぐはっ…!)


 今ここでトドメを刺しに来ないでください。

 あなたは教師と言う職業の超能力者ですか…!


 この42枚のプリント全てを30点以上取れ…!?

 俺には漫画原作だってあるんだぞ…!?

 あぁ、今。時間が止まれば良いのにと言う野郎の言う気持ちが痛いほどわかったかもしれない。


(まてよ…!)


 いっそ留年した方が都合がいいのでは…!?

 次からきっと、絶望のあだ名での学園生活が始まるぐらいなら、一度学年をリセット!

 からの新生活の方がいいのでは…!?


「留年したら、これの倍のプリントが君を待ってるぞ」


(ぐはっっ…!!!)


 この人俺の考えている事を読み取る能力でも持ち合わせているのかっ!!

 くそっ…何故こんなことに…!


 そうだ、俺の漫画の話は悪くない、うん。悪いのは全て俺の漫画の絵を描いているあの『北野シンデレラ』が悪いんだ、うん。そうに違いない…!!


 と、理不尽ないちゃもんをつけても始まらない。


「ま、まぁ…やりますけど…」


(なにをだよ!)


 嫌よ嫌よと言っても始まらないし終わらない。

 まぁ、できることなら逃げ出したい。

 そんな気持ちを胸に、俺は両手に大量のプリントを手にして、職員室から逃げ出した。


「あっ!南雲君!」


 職員室を後にして、そこで待っていたのは。

 今俺が学校に来る元凶を作った北野氏だ。

 そして、もう1人…。


「おっ!南雲!」


 誰だよお前は…!

 気さくに俺の名前を呼ぶ男、誰だよまじで、俺しらねぇよ!?


 てか、なに?『彼女は俺を待ってるんだよ?これから一緒に帰宅するのよ!?君は誰だよ!彼女のなんなんだよ!!』

 なんて、彼氏っぽいことを言えるわけもなく。


「…誰?」


 超普通の反応な俺!

 いや、冷静かつ沈着な正解の選択だ。


「えぇ、同じクラスだぞ!?出欠確認の時名前呼ばれたじゃん!西園大和にしぞのやまとだよ!」


 いや、しらねぇし…。

 他の人のことなんか気にしてられないから。

 てか、出欠確認の時の事はぶり返さないでいただきたい。


 役5年ぶりの出欠確認、自分の名前が呼ばれるまで心臓はばくばくで、呼ばれた時、声が裏返って恥ずかしかったんだからやめて…お願いだから!


 他の人のことなんか頭に入ってない!


「いや、覚えてないわ、すまん」


「えぇ!まじかよ!てか、南雲の出欠確認の時声が裏返っててまじうけた!」


 あの、だからやめてもらえますか…。

 今言いましたよね、心の中で…!


「あはは…」


 なに愛想笑いなんかしちゃってんの俺…。

 俺の中で、自分はこいつ(西園)より、下だと解釈したらしい。まったくけしからん。


「ま、そゆことで、同じクラスメイトどうし。これからよろしくな!」


「あ、よろしく…」


 西園の笑顔とともに右手を差し出してきて、俺は手に支えていた大量のプリントを左手だけで抑えて、西園の手と握手を交わす。


 そう、疑問に思うことがある、これは学生永遠の悩みである。


 いつから、友達だと言えるのか。

 西園は『よろしくな!』といい俺は西園と握手を交わした。

 これはつまり、もう俺とお前は友達だぜ!

 と言う認識でいいのだろうか?


 ふっ…浮かれてはいけない、所詮は友達1人だ、変に高まって確信してない事を追求してはいけない…そう。


(だから俺には友達がいないのだ…!!)


 廊下で立ち話することもなく、俺たちと西園は廊下で別れる。


 西園 大和…あーゆー奴はきっとこの学園生活をリア充ライフで満喫しているのであろう…!


 奴は俺の敵なのだ…!


(いや、まぁ…普通にいい奴そうだったけど…)


 北野さんと2人で帰路につく。

 あぁこんな美女と2人っきりで帰れる日が来るなんて、思ってもなかった。


 廊下で男子生徒何人かとすれ違った。

 何人も北野さんを見て振り向く。


(悪いな彼女は今俺の貸切なんだ!)


 まるでどこかのヒーローみたいなセリフだな。

 こんな事を言えるようになりたい…。


 なにも変わらない普通の帰り道。

 帰り道は…左だ!


 進行方向は左、俺は左方向に歩く。


「……うへぇ!?」


 ぐいっと右肩にかけていたバックを引っ張られる。


「どこに行くんですか?帰り道、そっちじゃないですよ…?」


「…あれ?」


 そう、忘れてはいけない俺は方向音痴だ、だから彼女がいるのだろう?


 にしても、そんなに引っ張らなくてもいいじゃないですか…。

 意外と強引なのねっ!!!


「………」


「………」


 とは言え、状況は朝と同じ、2人とも無言の時間が続く。


 さっきと矛盾してる気がするけど…早く時間が進めばいいのに…!

 なんか気まずい…!!


 とは言え何か話す話題もない、漫画やゲームやアニメの事ならばっちこい!軽く3日はノンストップで語れる自信がある。

 だが、そんな事今の女子高生に話したって『……え、あ、うん(なにそれわからない…)』と、思われ引かれてしまうであろう!


 そんな地雷を踏んではいけない…!

 キモオタと思われこれからの登校が永遠気まずくなるぐらいなら、俺のランクはコミュ障のままでいい…!


 そんな低レベルな脳内会議をしている自分が恥ずかしい…。


「そ、そう言えばすごいプリントですね!」


 話す話題を模索していたのか、北野さんが俺の大量のプリントについて話題をくれた。


「俺、テスト受けてないから。それのプリントだって…ほとんど問題分かんないのになぁ…」


 しまった…!なぜ問題できないアピールをしたんだ…勉強出来ないマンだと思われてしまうじゃないか…!


「そう言えば…今日の授業の問題も解けてなかったですしね…?」


 別に自分から暴露する必要はなかったらしい…。

 そう、すでにもう俺が脳内小学生な事は、彼女だけでなく、クラス全員に知れているだろう、うん。そうに違いない。


「あははは…勉強してないもので…」


「それじゃあ…勉強会しましょう!!」


「……え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る