第6話本ちゃんと告白
まさか自分がラブコメ主人公みたいな状況に陥るとは思ってもなかった。
ふむ、ラブコメ主人公は毎回こんな気持ちなのか、なるほどこれでラブコメの話を書けるぞ。
そんな事はどうでもよくて!
何も変わらない、いつものような2人での登校ただ、いつも以上に気まずいって言うだけで…。
ラブコメ主人公はあんなトラブル展開の後『ごめん!』と言って1発ビンタをもらって終わるだろう。
だが、現実は違うのだ。
俺は『ごめん!』と言ってもビンタは飛んでこないで、それから地獄より辛い無言の登校が待っているのだ。
こんなに早く学校に着かないかな…。
と願う事はこれから先ないだろう。
そっと俺の左後ろで歩いている北野さんの方を振り向くと、そっと目を逸らされる。
こういう時どうすればいいんだ…。
誰か僕に『北野 美南』の取扱説明書をください…!!
「……責任」
「…ん?」
後ろで無言を貫いていた北野さんが口を開く。
その声は少し震えていて、顔はさっき以上に赤くなっていた様に見えた。
「責任…!取ってくださいねっ!」
「…へ?」
責任って何!?キスしただけでまさか結婚しなくちゃいけないの!?
僕の初めてで許してくれませんかね!?!?
「…はっ!」
「…?」
目を合わせた事で北野さんはさらに顔を赤くし、右肩にかけてたバックを下ろし、俺の背中を軽く突っつく。
「えっえっ!?なになに!?」
「なんでもないです!!!忘れてください!!」
色々ありすぎて何を忘れればいいの!?
結局言葉の意味はわからず、ちょっといつもより長い道のりを乗り越え、学校の教室に到着。
「よーっす!お二人さん!今日も仲良いね!」
(少しは察せこのKY自称学力トップチャラ男!!)
朝からトラブル続きの俺たちの事なんか知る由もなく、先に登校していた西園が俺たちと挨拶を交わす。
「てかさ!この前南雲ん家で見た漫画で『System《システム》』って漫画の原作者の東雲 南雲ってお前と同じ名前だよなぁ!」
「…っ!」
そう、その『System』って漫画は俺が原作してる漫画だ、さすが学力トップだという西園だ、よく覚えていらっしゃる。
「でも、あの漫画あんまり面白くないよなぁ〜絵は上手いんだけど、話がなぁ…。南雲が持ってる漫画全部面白いのにアレだけあんまり面白くなかった〜」
(グサッ!!)
俺の心臓に何かが刺さる。
こいつ、少しは察せないのかしら…。
それとも狙ってるのか!?控えめに言って『お前の漫画面白くないからちょっと死んでくれない?』そう言ってるのかこいつは…!!!!
「…そんな事ないっ!!!!」
「…え?」
俺の後ろにいたいつもおとなしい北野さんが珍しく、いや初めて大声をあげる。
「東雲先生が書く作品は面白いもん…!だって…きっと、まだ本気を出してないだけ!!」
「…え」
いや、それはそれで本気をだしたつもりの僕としては傷つくんですけど…!?
「め、珍しいね…美南がこんな大声出すなんて、そんなにその漫画好きなんだ…?」
(おい西園!誰の許可を得て北野さんの下の名前で呼ぶ権利を獲得したんだ、ぜひ俺にも教えて頂きたい)
「す…好きだよ…?」
「…っ!」
落ち着け、決して『俺』の事を好きと言ったわけではない、うん。俺の『作品』が好きだと彼女が言ったんだ。
いや、それって実際告白なんじゃないか…!?
俺が今ここであの漫画を書いたのは俺です!と言えば…!?
「だってさ!南雲!良かったなぁこの原作者がお前と同じ名前で!」
(西園ぉ!お前は俺に殺されたい様だなぁ!?)
西園(こいつ)のせいで完全にタイミングを失った。
しかし、地雷を踏むかもしれない、それを止めてくれたと思えばいい…。
(くそったれぇぇぇぇ!!!!!)
振り向いて北野さんとチラッと目が合う。
そして、お互いにすぐ逸らす。
お互いに思う事は同じだった事にまだ2人は気づいてない。
((はぁ…言うタイミングがわからなくなった…))
授業の内容なんて頭に入ってこなかった(いつものことだけど)
そう言えば、北野さんが俺の漫画を知ってた?
北野さんって意外と漫画とか読む人なのかな?
意外と言えば意外だけど、まぁ不思議ではないよね。
「はぁぁ…」
授業が終わり、机で横たわる。
いろんな感情がごちゃごちゃだ。
「なーんだ南雲!そんな授業1つでそんなにバテてたらやってられないぞ〜?」
授業でこんなにバテたんじゃないんだよ!!
色々お前も含めてな!!
結局最後まで授業の事なんか頭に入ってくる事はなく、俺の頭の中は、やはり俺の漫画は面白くないのか?という疑問と。
北野さんが俺の漫画を知っていてくれた事の嬉しさで頭が行ったり来たり。
職員室で先生に終わらせた課題のプリントを提出する。
先生もこんなに短時間で済ませたのが驚いたのかびっくりした表情だ。
(ま、俺の力だけじゃ終わりませんでしたけど)
提出を済ませ、職員室を後にする。
まずは1つの問題を解消。
だが、俺にはまだまだ問題が山積みだ。
特にやることもない教室で頭を抱えている。
「おーおーそんな落ち込んで、どした?落ち込んでても仕方ねーぞ?」
俺の様子を伺いに来た西園。
少しは察してください!?
俺だって落ち込みたくて落ち込んでるんじゃないんです、君とは違うのだよ!君とは!!!
「まぁ、色々あるんだよ…」
「俺と南雲の中だ!何かあれば相談に乗るぜ!」
俺と西園の中ってなんだよまだ出会って1週間ぽっちの俺たちの関係に何があったっていうんだ?
まるでもう長い付き合いの親友みたいな言い方はやめていただきたい!
俺が地雷を踏みそうになるからな!!
え?俺の存在が地雷だって?だらまっしゃい!
「すいません…!南雲君!お待たせしました!」
日直の仕事を終えた北野さんが息を切らしながら教室に戻ってきた。
「全然待ってないから大丈夫だよ〜」
俺の今にも死にそうな魂は待っててくれなさそうだけどな!
「てか、お前達って登校も下校もいつも一緒だけど。付き合ってんの?」
迎えも来たことだし、帰ろうと教室を出ようとしたの時、西園から発した発言が教室の男子生徒達の視線が鬼みたいにギラついた。
「…えっ?」
西園発言で北野さんも驚いたのか言葉に詰まる(?)
「んなわけないだろ…ただ家が近いってだけだ安心しろ」
何に対して安心させたいのかよくわからんが、北野さんが言葉に詰まってる時に俺は速攻で西園の言葉を否定した。
「ま、そりゃそうだな、南雲が美南となんて釣り合わないもんなぁ〜」
「あぁ、そうだそうだ」
事実だか、遠回しに俺をdisってるぞ。
実は西園って天然なのか…!?
ワンチャン芸能人でのお馬鹿キャラでTVデビューできるんじゃないか?と思ってしまう。
「まぁ、そういう事だから。じゃ、また明日」
「おう、また明日なー!」
万年引きこもりニートだった俺が学校の同級生に『また明日な』と挨拶を交わす日が来たぞ…母上よ…私は成長しました。
「あ、あのさっきの…」
いつもの2人での帰り道、いつものように無言を貫いていたが北野さんがボソッと口を開いた。
「…ん?」
「さっき西園君が言ってた事…」
あぁ…2人は付き合ってるのか?ってあれか?
しかし付き合ってるように見えるものなのかね?
冷静に見たらわかるだろう。
俺からしたら嬉しい間違いだが、北野さんからしたら嫌な事であるかもしれないだろう?
西園よ、もう少しデリカシーを持ちたまえ。
「あぁ、あれか。ごめんね、俺のせいで変な事言われて」
そう言うと北野さんは俺の左隣で顔をブンブンと横に振った。
「そ、そんな事ないです!!」
「…え?」
「むしろ…!」
(むしろ…!?)
【ブゥゥゥゥッ!】
「っ!?」
鳴ったのは北野さんの携帯の着信音だった。
とてつもなく気になるじゃないか…!話の続きが!!!
「え、えっと…」
突然の電話に北野さんが戸惑いつつも、携帯を手に取る。
そして、かかって来た電話に出る。
(あぁ…なんかいい雰囲気がぶち壊しだ…)
これなんてラブコメですか…えぇ?
ぜひ今俺に教えてくれませんかね…。
「え!?ほんとですか!?」
「…?」
電話の内容がどんな内容なのかは俺には知らない、けど彼女の表情は驚きつつも、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「はい…!では、失礼します!」
笑みを浮かべたまま電話を切る。
そして、俺の顔にその愛らしい満面の笑みを浮かべた顔と目が合う。
「…やりましたよ!!」
「え?なにが?」
「今週の本ちゃん9位です!!」
「本ちゃん9位!?」
そうだ、今日はアンケートの本ちゃんの順位の発表日。
そして、順位が9位!
速報では16位だったのに、9位まで浮上したのだ。
「…やった!!」
【パンッ!】
北野さんが右手を上げ、俺と軽くハイタッチを交わす。
「よしっ!!これでまだ打ち切りになるかわからない!!」
(………あれ?)
ここで、冷静に考える。
「…どうしたんですか?」
「なんで、本ちゃんの順位が北野さんにも連絡が来たんだ…?」
「…!」
さっきの北野さんの電話の相手は担当編集という事で間違いないだろう?
なぜ、北野さんが…?
その時、俺の方の携帯にも着信がきた。
相手はまさに担当編集からの電話だった。
「はい、もしもし東雲です…」
『東雲先生!やったぞ!本ちゃん9位まで上がった!!』
担当編集もやはり順位が上がった事が嬉しいのか声は張っていてこの前とは大違い。
いつもより気合が入っている事がわかった。
そんな事より。
「えぇ、知ってます…」
『え?なんで…?』
「今…まさに隣の彼女から聞きました…」
『………そうか』
「えぇ…」
『…変わったろ?』
「えぇ…まぁまるで別人…」
そう言って、俺は左隣にいた北野さんの顔と目を合わせる。
その顔は少し下に向けていたが、赤らめていて、ちょっと照れてる??いや、わからないけど。
まさかとは思った…。
電話を終了して、もう一回冷静に整理する。
俺と北野さんは立ち止まり、俺は1年前に会った事のある俺の相方の『北野シンデレラ』とはまるで別人の『北野 美南』に問いかける。
「えっと…北野シンデレラ…先生?」
「………1年ぶりですね…?東雲先生…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます