06-3/4 IDEA×バトル


 ここは、とある大型ショッピングモールの名が付いた駅。


 一台の車椅子を押しながら四人は、その駅に降りる者の八割が訪れる『レークモール』の内部へと向かう。

 上谷は行く手先、彼等へと今の現状を説明した。


 そして、居場所は誰もいないレークモール駐車場のエレベータへと乗る。


「……一つ言えるのは『新世界』から『旧世界』へと繋がりが強いからこそ発生するバグがスーパーウイルスの正体。

 そして、今この街にはまたウイルスが撒かれている。

 それを解くためには表と裏を同位にする必要がある」


「いや、……お前が言いたいことはわかるが、それなら接続でもするのか?」


  車椅子を押さえながら、有栖はガツガツとその疑問を上谷へとブツける。


  それには、IDEAに詳しくない高橋も賛成だ。


「……そう聞かれると思った。だが、タダの接続ではいけない。

 スーパーウイルスは表と裏が重なる歪に隠れている。

 ソレを見つけ出し破壊するにはソレより更に強い『共鳴』(RESONANCE)が必要なんだ」


 共鳴だと? ソレまた知らないワードが飛び出す。


「……君たちに許可されているのは能力を1/10に制限される接続(リンク)までだが、共鳴は制限解除(NO LIMIT)。

 IDEAと同じ能力が発揮できる状態」

「だけど、どうしてよ?」

 有栖と違い滑らかでハスキー楓の喉が響く。


「それも説明しようか。例えばだけど、植物やカビを想像してもらいたい。

 根が生えた部分が表と裏のちょうど間だと思ってくれ。

 もし、木に触れずに土を掘らずに根を破壊する方法がわかるか? スーパウイルスはこういう存在……だと思ってくれていい」


 理論的にはサッパリだが、高橋は納得することにした。


「そして、コレが一度爆発すると、計算上で十ヘクタール以上、隣の市まで感染、いずれは空気感染で日本各地へと死の渦が巻き起こることになる……」


 屋上駐車場へ向かうエレベーターの中、上谷以外の全員が固唾を呑むことになる。


「だから、今からいうことを重々守ってもらいたい。

 まずは、共鳴の説明からしよう。共鳴は発動後三時間以内に根付いたウイルスを破壊することになる」

「もし、できなければ……」

 楓が小さな声で尋ねるが……


「……大丈夫だよ。私たちが付いている。それにウイルスはそんなに多くない。

 対IDEA用と言われたウイルス、核の近くでないと爆発はできない。――そして、壊すのはこのショッピングモール内のウイルスだけで大丈夫だ」


 ショッピングモール内、その条件とはIDEA核の力が働くことを意味する。


「……タダ、忘れないで欲しいことがある。

 この世界は制限解除(NO LIMIT)にはなるが、あくまで死亡不可領域。

 痛覚もあれば、ダメージどころか死ぬ可能性だってある」


 ――ちょうど屋上を示すランプが点火した。


「……まあ、最後にIDEA核本部に……」


 屋上の自動ドアが開いたとき、目の前に立ち尽くす一人の男に上谷の口が止まった。


「……銭形さん?」

 楓がこの姿を見て声を上げた。


 昨日、あのような事件があり、信頼度に欠ける男だが、彼は本部へと行って、『上位権限者』である楓の件の保留へ向かっていた。


 先手を取り、先回りするのはいつもの事ながら、高橋は彼がココにいる理由を尋ねようとした――そのときだった。


「……待つんだ。なにか彼の様子が可笑しい」

 上谷が気づいたと同時だった。


 銭形の手に収められているのは、現実では類のない拳銃。

 明らかに裏の世界のゲーム機能により使用が許されているバトル特化のハンドガン。


 既に世界は銭形の手によって接続されていた。


「君たちはさがっているんだ。

 どうやら、ココまで私たちをつけていたようだからね」


 上谷はバッヂを片手に付ける。すぐさま容姿を変更。


 その貧弱そうな身体が一瞬にして長身のモデル体型、手には役に立ちそうにない折れそうな杖。


 銭形がその黒い銃口を彼らへと向けると同時に銃声が鳴り響く。

 なにかを貫通させるだけの物音が響いたが、誰も倒れていない。


 その代わり――上谷の手から湯気があがった。


「スマナイね。本来私はサポートのほうが得意なんだけどね」


 銭形は怯むことがなく、彼の足元が一瞬にして消える。


 有栖は上谷と並ぶ――その手先の長針を投擲。

 いつのまにかに白銀の砲撃へと変化。


 だが、それを難なく避けた銭形は一度その脚を止める。

 後ろから爆発音。まるで、細い針でさえミサイルのごとき威力を持つ。


 その銭形の後ろ、桁外れの衝撃と砂煙があがる。

 その隙を見て、上谷は後ろの二人へ叫ぶ。


「――君たちは、エレベーターに乗るんだ!

 彼は私と市川有栖で抑えるよ」

 上谷は顔もあわせる隙も見せない。


「でも、アソコに行ったって」

「……大丈夫だ。高橋、ついさっきしようとした同じ手順だよ。

 あのセンターに上位権限者が手をおけば、勝手に作動する」


 ついさっき――あの場所に手を置くという事ことは?


 尋ねる間もなく、高橋は楓の車椅子を押してエレベーターへと急く。

 ボタンもなく閉じたエレベーターがどこかへと向かう操縦音が響く。


 なにかあったの閉じた瞬間に外から尋常ではない破裂音。と同時に、エレベーター内が何度も揺れた。

 小さな悲鳴を上げた楓の後ろで、車椅子が横転しないように高橋は強く車椅子を押さえつける。


 しばらくすると、その物音も弱まってきた。


「……なんで、私が上位権限者なのかな」

 楓が弱々しく呟く。


 高橋は尋常ではないぐらい罪悪感に浸る。それも、下手をしたら自身のせいかと思っていた。


上谷が語る上位権限者が楓に移植される前、その権利は高橋本人にあったというのが本当であれば、彼女を苦しめたのはまたしても高橋のせいだとも受け取れる。



「楓さん、ココに手を置いてほしい」


 冷蔵庫のようなデスクトップの一か所に掌認証をする液晶がある。


 資料の山を車イスで押していき、高橋はその目の前へとへと車椅子を合わせる。

 デスクトップの周りは、円盤が回るようなモーター音、その周囲には常に白い冷気が漂う。


 楓は、液晶へと真新しい皮膚の掌を添えた。


 その瞬間に、より一層モーター音と白い煙が強くなると、同時にその手前にあるディスプレイが起動する。そして、この黒い背景に白色のローマ字が急スピードで書き込まれていく。


 なにかのプログラミング言語だが、その改ざんが数十秒続くと最後に、『yes』と『no』という選択肢が表示された。


 その表示の最後には、『remove rimit of world ?』と書かれている。


「……世界の制限を解除しますか?」

 楓が隣で応える。


 高橋は『NO』に重ねられた選択を『YES』へと変えると、その手が硬直する。


 このボタンを押せば、この街の一帯が表と裏が重なることになる。

 それは一時的ながら、この現実が魔法や身体的拘束が解除されるということだ。

 だが、それと同時に裏の世界にこびりついたスーパーウイルスと時間との勝負。


 高橋は、今一度大きく空気を吸い込むと、このEnterキーを押した。


 押した瞬間だった。


 完全にこの隣にあったデスクトップのモーター音が消える。――だが、それは決して電源が切れたとは、停電というワケではない。


 デスクトップが『IDEA』における電源供給の方法に入れ替わったのだ。


 そして世界が変えられた証拠に、高橋が後ろへと振り向いたときに、一人の女性の脚が地面へと着地していた。


 今までの生々しい顔の傷の痕は一切なくなっていた。


「……本当に、世界が繋がっちゃったみたいだね」


 その姿は、傷もなく生きていた頃の楓。



『やあ、ちゃんと起動できたみたいだね。繋いでしまえばコチラのもんだ。

 携帯電話のマップアプリを見てくれ。勝手ながら、この建物の3Dマップがいれてあるはずだ』

 IDEAでは珍しくはないテレパシーの能力だろうか?

 高橋の頭に直接、上谷は言葉の羅列を想像する。

 その言葉通りに携帯電話を取り出すと、いつの間にか知らないアプリが起動し始める。


『そこの赤い点がウイルス分布図……そこの目を潰せばウイルスは勝手に消滅するから』

 二人は、この建物内の赤い点を確認する。


「場所は、おそらくショッピングモールの東エリアと南エリア……それと屋上」


『……了解した。私か白銀で屋上のスーパーウイルスは除去する。

 あとは、二人で対処を頼むよ?』


 そして、楓はある提案をする。


「アタイはここから遠い南アリアのウイルスを壊しに行く。

 高橋くんはここから近いウイルスを御願いしていい?」

「……楓は、一人で大丈夫なのか……?」


 こんなときにでも、高橋の心の中には動揺していた。

 さすがにこれはゲームではないという感覚が頭を過ると、緊張で手が竦む。


「なに言っているのよ? オサムくんが一番危険かもよ?

 でも、ウイルスはどんな形をしているのか……カムイ? その情報についてはないの?」

『ああ、黒くてデカい塊みたいのだから、一目見ればわかるよ。

 ……ただ、気をつけて掛かれよ。舐めてかかると厄介だから。

 特に高橋くん、君には机にある武器を使うといい。

 ゲーム王なんだから、射的ぐらいはできるだろ?』


 高橋は資料だらけのテーブルに置いてある四角いアルミケースに手をつけた。


 その中には、スペースチックデザインのピストル。

 注射器のような針のまわりにはバネがついたなんとも言えない形に目を細めて性能を疑うが……。



「……それじゃ、アタイの異能力があるから、たぶん片づけが終わるのはオサムくんと同じくらいになっちゃうかもね」


 エレベーターの入り口が開くと、そこはレークモールの目の前にある池が楓たちの目の前に広がる。

 楓は、その奥にある南エリアへ向かうため靴ひもを直している。

 現実の空気が、変わった色を帯びて目の前へと広がる。


「あ……あのさ」

 高橋には今のうちに話したいことがあった。


「もしさ……片づけが終わったらお見舞いに行きたいと思う。

 あのときに言えなかったけど楓さん、僕は君にちゃんと謝りたいんだ。

 どうでもいいとか言わないでほしい。でないと僕は……」

「――わかったよ」

 楓は図書室でみせるいつもの笑顔で振り返る。


 一年前と変わらない笑顔だった。


「でもさぁ、こういうときにそういうことを言うと死亡フラグだよ?

 死んだら謝れない。アタイ待ってるから。

 君とアカリちゃんが二人でお見舞いに来るのをさ」


 そしてこの会話前には、お互いはこの街を守るため動き出した。


「じゃあ、お互い終わったら連絡しよう。

 なにかあればいけないから、それだけは約束だ」

「ええ、勿論」


 俊足という名に恥じぬ眼にも止まらぬ素早さで楓は風となった。



 共鳴という表と裏の同和状態の世界では、この未来型スクーターはかなりの交通手段になる。

 携帯電話から飛行バイクを取り出すと、高橋はそれに跨る。

 運転設定をマニュアルに切り変えて、ブレーキペダルの重みをチェックする。

 感覚的にはゲームセンターにあるVRエキサイトバイキングと変わらないとわかると、高橋はゆっくりとアクセルを回し始めた。


 そして、湖を横断して、この先にあるレークモールの入り口付近を彷徨う。

 その下、交通路が停止している。


「……どうしたんだ?」


 不思議がって、時が停止したかのような人々の様子がオカしい……。


 何者かが、レークモール一帯の人々になにかしらの呪術を掛けた。

 ただ茫然と立ち尽くす人間は中国の映画に出てくるキョンシーに似ていた。


***


 ただひたすら誰か知り合いに会えることをアカリは望んでいた。


 誰も知り合いのいない街並み、知らない笑い声、押しつぶされそうになる心。

 その中で、立ち尽くして、過ぎる人々を一人一人と目で追った。


 だが、そのとき異変が起きる物音――青写真の中に取り残されたのが自分だけだ。


 まるで、時間が止められたように、今まで声を上げて歩いていた男女、学校をサボった中高学生が目が虚ろになり立ち尽くす。

 その中の異変に取り残されたアカリは、その街でたった唯一自我を持つ存在にも見えた。


 しかし、紛れもなくこの街は未知な領域へと変貌した。


 彼らの意識が失われた正体……桁外れなまでに大袈裟に人智を越えた行いにはアカリは覚えがある。


「……わたしの、光幻術」


 掌を構えて理解する。バッヂが溢れ出す力に反応している……。


 だが、それと同時に仕掛けられたかのように、誰かが『光幻術』または『催眠魔術』を使用、まるでこの世界の秘密を誰かに隠すようだ、とアカリは思った。



 ――そのとき、この幻の首謀者は近くにいた。

 この時間軸を歩ける人間、まさしくアカリと同じ新人――彼と目が合う。


 現実世界とは違う衣服、新人が好んで着用する類の黒のロングコート。

 月のネックレスから、ケルト十字の刻印された指輪、被るトンガリ帽子から、すべてがある種の秘匿品と言われる装飾。

 そのトンガリ帽子から垂れる黒く長い髪は女か男かさえ迷うほどだが、細いながらに僅かにキッチリした身体つきは男性。


 この口調もキリッとした目も口も兎を襲うオオカミそのものだ。


「へえ? 君、結構カワイイね。

 ココで動けるという事はこの世界の者ではない。間違えではないね」

「アナタは……何者なの?」

「あぁ? ソレ知りたい?

 もし知りたいのであれば、君をタダで返すワケにはイカナイ。

 それがどういう意味かあの世界の掟を知る者にはわかるとオモウケドナ?」


 だが、すぐに彼の振舞いからあることを理解する。


 この力は自身が使用する『光幻術』と同じ意識を操る魔術、それにコレまでに装備を揃えるだけ実力。

 あの男がタダモノではないと意識すると同時に彼が存在に思う節がある。


『強制ログアウト』、新人狩りとも言える暗殺を企てる組織。


 彼等の正体は未だに明らかではない。

 それだけの魔術を使用できる逸材、この多人数の自我をコントロールできる人間ならそれは可能だとアカリは理解する。


 誰にもバレることなく、強制ログアウトやその人の命を奪うだけの実力。

 それが行える実力者はアカリにとっては有栖の他に皆無だった。


「……言わなくても理解した。

 それで今回の目的はなに? 次はわたしを殺すつもり?」

「……あれ、心が読まれているのか? いや、そんなことはないよな……」


男は携帯電話の液晶を驚いた表情で見返し、別の可能性を確信する。


「そうか……。それがわかっているってことは銭形の一味か。

 なら、尚更君を活かすワケにはいかないね」


 その隙、オオカミ男の藍色の目が、アカリを貫く。


 その一瞬で、不可視な意識の取り合いが始まる。

 彼により動かされたシナプス運動をアカリは脳裏で自身の力で覆い、逆に悪戯にあの男の脳へと飛び込んで見せた。

 隙あれば、その場で男の自我を端から端まで砕いていく。


 焼けつくように彼の脳を神経伝達を触ってみたが、男もそれに気がつくと力ずつでソレを追い返してみせた。


「……アんた、一体何者なんだ?」

 オオカミ男はこの現状が信じられないという眼差しをアカリへと向けた。

 驚きと怪訝を向けたのはあの男だけでない。

 今まで感じたことがなかった自身と同じ系統の魔術にアカリは焦りにもいた驚愕をする。


「なんで、わたしと同じ魔術を……」


 魔術には向き不向きがある。

 IDEAでは個人の体質により使える魔術が決まる。

 この術はIDEAで生まれ育ったアカリにしか使用できない魔術だと思っていた。


 そして、今現在の表と裏の接続がいつもと違うと気づく。


 アカリは、男のあまりの増大な力に苦痛にも似た怖れを感じていたが――しかし、このあまりの権力が、彼だけのモノでないと知った。


『……それにノーリミット? この現実は接続とは違う地場?』



 だが、男の手はアカリの思考を待つことはない。

 彼女が思考に耽っている隙を見て、その片手にはアカリとまったく同じ系統の水晶が握られている。


 それに咄嗟に気がついて、アカリも反射的に水晶を構える。魔術の祈りを集中する。

 眩く白い光が形となり、その容器へと吸い込まれる。

 それでいて、男に取り付いている魔術具を確認、アカリは一種の迷いが生まれる。


 もし、お互いの力が互角であるのであれば『ソーラーレイ』を同時に放つとき、確実に消されるのはアカリ自身。

 なぜなら、『光幻術』と呼ばれる魔術は繊細の生地に針を通していく作業だとしたら、ソーラーレイはまさに圧倒的な破壊。そして、男が着用する衣類はその威力を増大する系統の秘匿品で装飾されている。


 ――まともに戦うべきでない。


 初めて自身のステータスの限度を模索する。


 そして、この結果、彼女は中途半端な砲力で、彼の目暗まししか思いつかない。

 その砂煙の中で、アカリの容姿がスピード重視のアバターへと変貌――しようとした。


 だが、生死を分けた争いに一種のトラウマが蘇る。

 昨日の脳裏が麻痺するような痛み。


 その葛藤の末、アカリはその重い容姿のまま男の懐へ、奴の感情の支配を試みるが……



 砂煙が立ち去るとき、男の手が触れるぐらいの距離でアカリの頭をさす。

 この距離であれば、彼のソーラーレイで一瞬にしてアカリという存在は消し去る。


 だが、男はそれをしない。

 代わりに、アカリの思考へと直接語り掛ける。


『もう一度聞く……。アンた一体この術をドコで手に入れた?』

『そ……それはわたしが聞きたいコトですね』

『……ふっ、まあいい。同じ術者の誼だ。

 お前、俺たちの仲間にならないか?』

『どういうことですか?』


『知らないのか? まあいい。

 この世界が我々にとって住みにくい……その原因がわかるか?』

『……魔法がない。それに……』

 アカリは思ったことは、『わたしには居場所がない』

 

 男の鼻が鳴る。だが、笑ったワケでも否定でもない。


「居場所がないねぇ。

 ……じゃあ、なぜないのか。新人はそのあまりの強さにこの世界から追い出された存在……。

 アンたのこの力もきっとココでは報われない。

 きっとアンたも生きづらい毎日を送ったんじゃないのか?」

「……そ、それは』



 ――その時に一発の銃声が響き渡る。

 目の前の男から苦い顔が浮かびあがる。

 その口元から血が溢れ出した。「ッグ……」


「――アカリにぃ、手を出すなぁぁぁ!」


 高橋は、この手に構えたレーザー銃が男を貫通した。


 その表情を出したがらないオサムの顔には、アカリがかつて見たことのない怒りに満ちた感情が込み上げていた。


 なぜ、異能力のない彼が……。

 理屈ではない強さが高橋にはあるとアカリは思う。


 アカリは唖然とそれを眺めるしかない。


 そのスペック以上の相手に平然と戦いを挑む――高橋を理解できなかった。


 気がついたときにはあの男の姿は消えていた。

 現実では、その油断が命取りになる。


 あの男も昨日のアカリ同様に痛みについて理解していなかった。



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