01-2/3  地獄のエンドレスラン! この世界は?


 なんて考えていると、鏡がもう一度強く光り始めた。

 その嫌な予感に、二人は唖然と鏡を眺めていると、鏡がまるで唾を吐くように高橋の見覚えのある男が飛び出てきた。

 飛び出した勢いのまま、榊原剛も高橋と同じくベッドへと打ち伏せて、しばらくの嗚咽。


「痛ててて……」

 榊原には先ほどの少女の緩衝材がなく、頭をベッド奥の壁へとダイブ。

 高橋は、少女と榊原から距離を取る。よりによって、コイツがこんなところに来るなんて……。


 榊原は、一度体制を整えると、一度高橋を確認した。

 しかし、その目は次に隣の少女へを向けられる。

 そして、また高橋へ。その目が何かを訴えようとしているのが分かった。


 それが理性も引っ手繰れもない榊原がなにを考えているかぐらい想像がつく。

 おそらく、『この女オマエのか?』が妥当だろう。

 高橋は、手で『違う』というようなデスチャーを見せた。


 そして、彼の行動は鳩の求愛行動のように早かった。

「こんにちは、お嬢ちゃん? 君の名前を聞いてよろしいですか?」

 少女は溜息をつく――「アタイは……流佳乃」

「俺は、榊原剛。一応、越谷総合高校の頭やってんの」


 榊原のその手は既に流佳乃へと握られていた。

 明らかに少女が困っている顔をしているのが分かる。


 そして、高橋が彼女の名前を知った。

「へえ……」榊原があからさまに高橋を確認した。「こんな男と遊んでないでさ? 俺とどう? オモシロイ店たくさん知っているよ?」

あはは……という顔を見せた流に流石にヒーロー気取の高橋は黙っているワケにはいかなかった。

 それに、高橋は女性を詰め寄る男性が大っ嫌いだった。


 高橋は以前のトラウマを思い出す。

 自分があの時、一声かけていれば、すべてが変わったかもしれない。

 そして、今も――俺様主義のこの男へと鉄槌を降すときだ。


「――いい加減にしろよ?」

 高橋の手には刃渡り二十センチ程の刃が握られていた。

 さすがに流も、その刃を見た瞬間に口の辺りがあわわと震えはじめた。


 それを見た榊原は体制を高橋へと向ける。

「ほう? こんなんでオレに勝てると思っているのか?」

 榊原はなにかの格闘技の構えを見せる。聞いた話によると、榊原はコレでも空手と柔道の両方の有段者だという噂。

 高橋があの高校へ入学する以前、駅前の他学校との抗戦で彼は一人で敵対グループを壊滅まで持ち込んだという噂もあるぐらいだ。


 それにしても、なんでこんなスポーツマンがこんな悪さばかりしているかというと、それにもワケがある。

 だが、今は関係ない。どんな理由があれ、今彼が現世で行う非道はまさしく悪。

それを倒すためなら手段を択ばないのが、高橋の正義だ。


 高橋はさすがに武器を所持をしているにしても、自分よりも背が高く長い手足の榊原に一驚したが、そんなことで怯んでいるわけにはいかない。

 どうにか彼を追い出す方法がないかと考えたそのときだ。


「――いい加減にしなさい!」

 流の声が二人の間に轟く。


 そして、彼女は両手を二人に立ち塞がるように向けた瞬間だった。

 信じられない衝撃に高橋と榊原は一度目の前の現実をこの目で確認した。

 それは、魔法のような、一閃の旋風が二人の腹部に捩じ込んだ。

「ゲホッ」高橋も榊原も壁際にぶっ飛び、背を壁へと練り込ませた。


 築何年かの建物が崩壊するんじゃないかと思われる衝撃。だが、不思議と建物は崩れはしない。崩れたらそれはそれで困る。

 溝打ちにお互いに嗚咽。二人は流にイカレタ目を向けた。


「アタイがこんな可愛い……ってのは、わかるけど、ここで喧嘩されると困るの……。それに……君たちは……」

 流は、そのまま説教を始める。


 だが、あまりの痛みに話なんて聞いちゃいられない。

 そして、倒れた高橋は逆に飛ばされた榊原を確認。彼も顔を真っ青にして、おそらく溝内喰らった腹を押さえていた。


「聞いてるのぉ? 二人とも」流はテーブルを叩く。

 その時、高橋も榊原も考えていることは一緒だったかも知れない。

 テーブルが鳴る音と同時に榊原と高橋の二人はあまりの素早さでドアを突き破り、即座にこの部屋から逃げ去った。


 そのあとには唖然と立ち憚る流。彼女以外の証拠はなにも残らない。

 その素早さに流は、顎をはずれるほど釈然とした。



 二人があの荒くれた学校生活で培った野生の勘。喧嘩早々に何も手を加えていないのに先に手を出して抑圧を計る人間。

 一発目がああも早かったのだ。下手したら第二打が待ち構えているかも知れない。

 そして、大体の人間は負けると分かっていても逃げることに恐れるのだ。


 それは、正直少年向け週刊誌の読み過ぎだと忠告しておこう。

 間違えなくアイツ(流)は、イカレている……。高橋も榊原もそのことには気づいていた。


 とにかく二人の脚は某有名怪盗グループのように早い。

 お互いに毎日走り回っていたんだ。下手したら、県大会にも出場できない彼らの高校陸上部の長距離選手並みに早い可能性はある。


「――おい、アイツ、どうしてあんな腕力持っているんだ?」――榊原は、走りながら高橋へと声を絞り出す。

「いや、スミマセン。僕も知りません」

「はあ? じゃあ、なんで二人は一緒にいたんだよ?」

「聞きたいのはコッチですよ。

 急に真っ暗になったら……なんか落とされて、気が付いたらこんな場所に」

「オラも、同じ感じだ……」


 お互いに情報交換を交えて、奥へ奥へと走り出す。


 二人に違和感が湧き出てくる。

 ここは、今までいた路地裏ではなかった。

 そして、高橋があることに気がついたのは、住宅街を抜けて脚を止めた時だった。


「……嘘だろ」

 目の前には、見たことのない世界が広がる。

 あるで、誰から空想した二十二世紀のSFの世界……と言ったら変かも知れない。 越谷には見ない高いビルが何本も立ち並び、真ん中には大きな道路。


 だが、車両から吐き出される排気ガスの音が全くない。

 それどころか、その乗物はタイヤもなく地面三十センチほどを浮遊していた。

 車両の中には人が乗っているが、運転手の姿は見受けられない。

 そして、その上空にも車両が跋扈している。気付けばそれが何重にも何重にも空高く存在し空を駆け巡っているのだ。

 聞こえるのは人の声だけ、この祭囃子の中に二人は脚を踏み入れれずにいた。


「おいおい、嘘だろ……」榊原は怖れ誤って高橋の肩に手を置く。

 高橋は、この風景には見覚えがあった。それは、ある友人が所持していた何十年前のゲームだ。


 二十一世紀初頭、世界は今よりずっと高度な文明だったと呼ばれている。

 それは近代史と呼ばれる第XX次世界大戦が終えてから何十年の教科書に小さく記載された時代風景。


 高度情報社会と呼ばれる時代に人間の脳裏に直接映像を送り込む技術バーチャルリアリティーという技術が存在した。

 しかし、その技術はある事件から規制されることになる。


 学校の教科書通りに説明を加えるのであれば、その技術はあまりに人を凶暴化、現実と架空の区別を曖昧の存在へとさせたとか。

 だが、その存在は確かにこの時代のマニアの間に流通されており、高橋もそれを体験したことがあった。


 彼は、興味本位でこの世界観に入りこみ、この世界を見て渡った。

 このゲームは、ある研究グループが当初、研究の目的で作り上げた東京二十三区すべてを回ることができる架空現実の世界。

 この世界は、その当時の東京、秋葉原と呼ばれていた街の一画、そのものに酷似していた。

 

 更には、この街に歩く人々は高橋や榊原が着用している国家指定ジャージ、腕時計、携帯電話を所持していない。

 日本は十数年前の隣国の戦争のウイルス兵器や爆発による火事に供えて、すべての衣類に規制を加えた。そのため、耐火性、ウイルス防止に特化した服装の着用を義務付けたため、このような服を着ることは許されておらず……。

 高橋が考えが正しければ、彼らの衣服類の特色は『洋服』と呼ばれた二十一世紀のファッションなのだろう。思えば、流という少女もこの民族衣装を着用していた。


 高橋は、ある予測からビルの壁に手をやる。

 手触りが、完璧すぎる。これはVRでは感じにくい感覚。脳裏にいくら手触りの感覚がインプットされるVRでもここまで完璧に手触りは再現できない。


 だが、最初に見上げた空を飛ぶ機械。それが、車という乗物の進化系だと思ったのは、下が道路が存在し、機械の内部には人が存在したからだ。

 これはまさしく、架空現実縄ではのシステムで間違えがない。……だが、研究用のゲームにはこのような空を飛ぶ乗物は存在しなかった。



 しばらく二人が街を眺めていると、一人の子供が指を指した。

「あれれ~? 新しい人たちがいるよ?」

 その瞬間、この親と思われる女性が脚を止めた。

 それと同時に違う大人たちも二人の存在に気が付いたように脚を止めていく。


 この目はまるで、輪の外の人間を見る覚め眼差し。

「――旧人類よ……」誰かがそう呟くのを二人は見逃さなかった。


 その一人の女性が型が極度に古い携帯電話を片手に取ると、ダイアルを押す仕草。まるで、犯罪指名者でも見つけたときの反応。

 そして、その輪が段々と大きくなるのに気がつくときには、榊原は一歩下がった脚をそのまま回れ右。一目散に来た道を戻るしかなかった。

 高橋も、それに引かれるように逃げ始めた。


 路地裏の深部。誰も追いかけてくることがないところまで二人は逃げ込んだあと、息を顰めながら話し始めた。


「ここはどこなんだよ……」榊原は息を吐くように尋ねた。

「……一個だけわかった事があります」――高橋は、息を正しながら榊原に言う。

「なんだ? 言ってみろよ?」

「ここは、XX年前の東京……おそらく台東区か千代田区、秋葉原と呼ばれる場所だ」

「はあ? どうしてこれがわかるんだ」

「バーチャルリアリティーって呼ばれる昔流行ったゲームを知っていますか?」

「……ま、まあ、一応教科書で読んだことがあるぐらいな」



だが、この時一人の男の叫び声が聞こえた。――「いたぞー!」

お互い脊髄販社の素早さで、立ち上がる。

そして、榊原はある提案をし始めた。

「――もうオレ……はぁ……彼らを退治するにも一人じゃ無理だ……お互いに別れて分散した敵をやっつける…どうだ?」

 それには、どうも賛成するほかなさそうだ。「わかった」


 行く先には左右に二つの道が別れている。

「オマエはどちらに行く?」榊原は揚がる息を悶えさせて尋ねる。

先に行き先を決めさせる以上、彼には何も黙る手立てはできていないのは理解できる。

「じゃあ、僕は右に行きます……」「分かった」


 そして、お互いに道を別れた。――と、思ったが榊原はそのまま分かれ道の真ん中へと足を止めた。

「――おい、バカ!」


 アイツ、映画版●ャイアンにでもなったつもりだろうか? それに、おそらく大の大人相手だけあって榊原が倒せるのも二人が限度。


 高橋は後ろをもう一度確認して男たちの身体つきを確認した。

 榊原も成人男性以上の背丈はあるが、大人複数人に敵うはずがない。


 袋に遭う彼を想像した時、高橋はそれでも自分の今の行動が正しいとは考えれなかった。


 高橋は立ち止まる。

 負けると分かっていても尚、助かる計算をしていたのだ。


 こういう殴り合いになるときは奇襲戦法が一番よい。

 高橋が脚を止めた瞬間、後ろの男たちはある種の安堵の表情を見せた。だが、高橋は不敵な笑みを見せつけた。


 高橋を追っていたのは、青年二人だけだった。

 彼らを確認してから、高橋は隠していたあるモノをポケットから取り出す。その金属の鈍く偽物の輝きには青年たちは一度鈍く顔を乞わばせた。


 常人に、サイコパスのような異常性を見せつけるだけなら、この刃物だけで十分だ。

 高橋の思惑通りに、男たちは苦い顔で一歩さがる。


 だが、青年の一人が止む負えないな……なんて言いながら片手を銃のように構えてこちらへ向ける。

 一瞬、最初に出会った流という少女の顔が過ぎる。そして、あの殺気に満ちた一撃を思い出すと嫌でも殺気めいた予感に押しつぶされそうになる。


 だが、高橋は動じたらいけないと、歯を喰いしばる。

 ……あんな魔法じみた波動拳が二度とあって堪るか! そう考えていたが……。


「……ぷ、はははははぁぁぁ」片手を中に構えた男の隣、爽やかな長身の男がいきなり噴出した。

「アギト兄さん、コイツが持っているの……玩具だったわ」

その台詞に高橋は驚愕した。

『……はあ? なんでバレた?』


 事実がバレてしまった今、高橋には立ち向かう歯がない。

 そもそもなかったワケだが。それより、どうしてバレたんだ?

 この演技はおそらく大阪の新喜劇以上に完璧だったはず……。


 それではまるで、超能力か何かで高橋自身の思考を読むテレパシスでも使ったような……いやいや、そんなことがあってなるモノか!


「いやいやぁっつ…そんなことないからねえっつ!」


 高橋の声は媚びた女のように裏返っていた。そのことに高橋も気づいていて、よくもこんな大事な場面で声がひっくり返るもんだなと我ながら感動した。

 変な水玉までもが顔に浮いてくる。背中は既に風呂上がりのようにびしょ濡れになっていく。


 高橋に彼らの正体は分からないが、所謂絶体絶命であることだけは理解できた。


「と……とりあえず、どうする?」

 あまりの大根役者を見せられて苦笑いするテレパシス使いのお兄さん。

「ん……どちらにしても、気絶させなきゃ駄目なんでは?」

 アギトと呼ばれた拳銃のお兄さん。


 そのセリフを聞いた直後、高橋は手から銀箔の玩具が落ちた。

 プラスチックの乾いた音が狭い路地に響き渡る。


 

 だが、彼等がそんな高橋に憐みの目を向けたとき――天から天使、いや……あの少女だ。

「――ちょっと、待ったぁぁぁっ!」

 そのハスキーな甲高い声が天から響き渡る――男たちも不思議そうに空を見上げる。


 すると、ビルの間を飛ぶような女性――あ、パンツ見えた。

 白とピンクとストライプが彼女の精神年齢を物語っていた。

 その翻るスカートを押さえて、彼女は天から地上へと、高橋と青年二人組の仲裁するように間へと着陸。


 流は一度、高橋へと笑顔を見せた

「白とピンク」――テレパシスのお兄さんがポロリと吐いた。

「見るな! カムイさん」

「だって、見えちゃったんだからさ……」


 高橋は呆然と二人を眺める。どうやら、三人は知り合いらしい。

「ごめんね……。彼は、アタイの友人なんだよね」流は、苦笑いながら二人を伺う。


 アギトとカムイは一度お互いを確認した。

「いや、いいんだけど、チャント次からは届け出は提出してくれよ」

「じゃ、じゃあね。後でちゃんと連絡するから……」


 そう言いながら高橋は、流に手を引かれてこの場を立ち去っていく。

 それに手を振るアギト。その隣、カムイは大きく溜息をつく。


「彼女の言葉は……半分嘘で、半分が本当だね」

 隣にいたアギトには、その意味がどういう意味が分からない。

「それってどういう意味だ?」

「……まあ、時が来ればいずれわかるさ」


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