第2話

「要先輩、どこか調子が悪いんですか?」


 ビール瓶を片手に持った咲ちゃんが、首を傾げて心配そうな表情で声をかけてきた。


「いや、大丈夫だよ」

「でも、今日はあんまり飲んでませんよね?」


 あっちこっち注いでまわってるのに、よく見てるな。


「本当に大丈夫。そういう咲ちゃんこそ、みんなの面倒ばっかり見てないで、ちょっとは楽しんだらどうだい?」

「楽しんでますよ? 注いでまわった先で、みんな面白い話をいっぱいしてくれるので」


 屈託なく笑う。俺は苦手だけど、彼女にとっては全然苦じゃないんだろうな。


「咲ちゃ~ん」


 声をかけられ、振り返って「は~い」と返事をしてからもう一度、


「本当に、具合が悪いんじゃないんですね?」


 と確認してから呼ばれた方へパタパタと小走りでいった。



 よく気がきいて聞き上手の咲ちゃんは、密かにサークルの人気者だ。アイドル的存在のクールビューティーな琴音ちゃんといつも一緒にいるから、その人気ぶりは目立たないが。

 自惚れじゃなく俺に好意を寄せてくれているように思えた頃もあったけど、恋に恋しているようにふわふわしていた彼女。半分俺がけしかけたとはいえ、今は樹が気になってしかたがないらしい。

 あちこちまわりながらも時々あいつの方へ視線を走らせては、周りの女の子にじゃれついているのを見て、ちょっと悲しそうな顔をする。

 なんともいじらしい。


 こんな表情かおをさせる樹が気に入らない琴音ちゃんは、俺がけしかけたことは知らないはずだけど、何か感じているんだろう。俺にも風当たりが強い。大好きな咲ちゃんを守りたい気持オーラちがありありと前面に出ていて、見えない圧を感じる。

 まぁ彼女の気持ちもわからないでもない。樹はあの通り、いわゆるチャラ男だから。

 だけどそれがあいつの仮面だということを俺は知っている。本当は繊細で一途な奴なんだ。

 琴音ちゃんが咲ちゃんに幸せになってもらいたいと思っているのと同様に、俺も樹には幸せになってもらいたいと思っている。

 

 その樹はというと、これが無自覚で困りものだ。

 自分は女の子たちに囲まれてわいわい騒いでいるくせに、ちらちらと咲ちゃんの動きを目で追って、野郎のところに長居してるとイラついている。全くなんであれで気づかないんだか。

 咲ちゃんがそこを離れて琴音ちゃんのところへ行くと、俺からみると明らかにほっとした顔でまた女の子たちと戯れている。琴音ちゃんの周りに群がる新入生の男どもが、咲ちゃんは眼中にないのは明らかだから。困った奴だ。


 あ、また咲ちゃんが移動した。


 途端に不機嫌になる樹。

 俺は思わず吹き出した。

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