第3話
おっと、もうそろそろフォローしないとまずいかな。
本来男嫌いの琴音ちゃんが、今日は我慢して新入生の相手をしてくれている。この時期まだまだ入ったはずの新入生がやめていくことは多いから、彼らをこのサークルに居つかせるために頼まれたようだけど、だんだん絡み酒になってきている奴らに辟易している。咲ちゃんはどうフォローしたらいいかわからないのか、少し離れて心配そうに見ている。
四回生は高みの見物。
本来この場をおさめるべき三回生は、樹を筆頭に気ままに飲んでいる。まぁ、よっぽど大事になれば奴らも動くんだろうけど、ちょっと絡まれてるくらいなら放置だろう。
じゃあ二回生は助けるかっていうと、新入生たちを確実にゲットするために、ここは穏便にすませたいところ。琴音ちゃんに犠牲になってもらうつもりだろう。
琴音ちゃんもそれがわかっているから、いつもなら相手にならない野郎どもの相手をつとめている。
けど……、あれはもう限界だな。
俺はちょいちょいと小さく合図を送って咲ちゃんを呼んだ。
「あの中で、テニスが一番うまい奴呼んできて」
これだけで琴音ちゃん救出と理解した咲ちゃんは、ぱぁっと顔を綻ばせてパタパタと琴音ちゃんたちのところへ行くと、するりと輪の中へ入っていった。そしてまるでずっとそこにいたかのように会話に入り込み、うまくテニスの方へ話を誘導する。
こういうところ、何気にすごいよな、あの子。
しばらくして咲ちゃんが一人の男を連れてきた。
やってきたのは典型的なナルシスト。酒が入っているとはいえ、滔々と自慢話を語りだした。
こういう自己陶酔型の酔っぱらいは、上手く煽てて喋らせておくに限る。時々相槌を打って乗せていくと、一人で盛り上がって仲間を呼ぶ。
琴音ちゃんの周りから野郎どもが離れると、咲ちゃんが新入生女子をビューティー談議でうまく連れていき、彼女たちの周りは女の園になった。
俺は適当に相槌を打ちながら、周りに集まった新入生男子たちを飲ませてつぶしていった。
みんながへべれけになった頃合いを見計らって、俺は予定通りに抜け出すことにした。半分以上はもう寝てしまっているし、残りもそのうち寝るだろう。部屋を出る前に毛布を配って歩く。
新入生女子は全員寝てしまっていた。咲ちゃんはやっと落ち着いて、琴音ちゃんと飲んでいる。
琴音ちゃんは……彼女にしては珍しく、いくらか酔っているようだ。上気した頬がほんのりピンクに染まり、咲ちゃんと二人だけで話しているからか、柔らかい微笑みを浮かべている。いつものしゃんとした姿勢も少し崩れて、ほのかに色っぽさが滲み出ている。
こんな姿を見たら、また彼女に夢中になる奴らが増えるだろうと部屋を見回した。
まともに意識のありそうな奴はいないな、うん。
なんとなくほっとして、俺はそろりと部屋を出た。
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