アン「だーめ」
「サキト。メール、書いて」
「ええ……? でも」
木の上のナゴがあくびしてからややあって。
咲人はアンに迫られていた。
――やっぱり、サキトも頑固。
咲人とえみは仲の良い親子だ。素直に言いたいことは伝えられるはずだし、そうするべきだ。アンはそう思うのだが、咲人はうんと頷いてはくれなかった。
「わかった。じゃあ、私が書く。サキトはそれ、えみに送るの」
「えっ?」
「サキトは代筆」
「あ、アン? いや、それは――」
「だーめ」
なら、自分がえみにメールの内容を書けばいいとアンは結論を下した。彼女はスマホの操作は分からない。しかし、咲人はアンの書いた文字を読めるのだから代筆は可能だ。
内容は簡単だ。咲人がえみを心配しているからあまり無理はしないで欲しい、これで充分だ。
「い、いや、その……アン?」
「……むぅ」
アンの申し出に彼の感情が不快や怒りに揺れるようなら取り下げることも考えたが、咲人は躊躇っているだけのようだ。アンは煮え切らない彼の態度に彼女には珍しくイライラし始めた。代筆させる内容をとても丁寧に長い内容にしてあげようかと意地悪な考えが浮かんできた。
――それはダメ。なにか、善くない。
ハッとしてアンは首を振る。ふと、ナゴの姿が視界に映る。腹が膨れたようで魔獣は木の上でゴロンと伸びていた。それなりの時間が経過してしまったようだ。
「とにかく、帰ってご飯。それが終わったら、メール書く」
「……はい」
「それと、美味しくないギョドンは私の分」
「え? それは……」
「だーめ」
これも少し前から思っていたことだ。
咲人はいつもアンに美味しいギョドンを回してくれるが、獲ったのは咲人なのだから彼が食べるべきだ。
美味しいものと不味いのを袋に詰め、残った一匹を放流するとアンは踵を返して家へと向かう。
慌てて咲人がその後を追いつつアレコレ言い出すがアンは全部笑って一蹴した。
「だーめ」
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