えみのタスク①「汚部屋掃除」

「さて……やりますか」


 丹湖門えみは鋭く息を吐きながら気合いを入れた。

 帰宅後、着替えと父へのメール送信を終えた彼女は自室に山と積まれた荷物を睨んでいる。


「どーして、こうなった……?」


 先日から部屋の片付けに着手したえみだったが、友人が訪ねてくることを思い出した瞬間その手が止まってしまった。

――この部屋、お父さんへの仕送り用の物が多すぎ、だよね?

 ゴミを捨て去り、散らかった物を在るべき場所へ戻し終えても部屋には大量の物品が溢れていた。その大半は父のために購入した品だ。

 これらを見て友人はどんな反応をするだろうか。

 えみが父である咲人に仕送りしていることがバレたりはしないはずだ。なんといっても咲人の行先は異世界なのだから。だが、そうなるとこの大量の荷物はなんのためのものか。

 引っ越し、あるいは退職、というワードが頭に浮かんだ。えみはどちらも考えていないが、友人二名がその可能性に行き着くことは想像に難くない。

 ならそれっぽいものを隠してしまえ、と先に押し入れの中身を全て引っ張り出したらこの有様だ。記憶にない品が次から次へと発掘された。どうやら過去の自分は想像以上にものぐさだったようだ。


「いかんいかん……! やるんだ、やらなきゃ……!」


 しかし、えみは自身の頬を叩き、片付けを開始した。荷物を一度に全て出せるスペースがあるうちは整理整頓は実はそんなに難しくはない。時間はかかってもやれば、終わる。

――それに、片付けなきゃいけないことはまだまだ沢山ある……!

 だからこれはその手始めだと言い聞かせながらえみは手を動かす。

 その様は咲人の言う通り猪突猛進であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る