アン「一緒にいよ?」@月明りの下で
「どーしてこうなった……のでしょうか?」
咲人は嘆息した。ベッドに身体を横たえ額に手を当てる。
大変な一日の終わりにあってその仕草はもっともであった。
しかし、咲人の呟きは一日を振り返ってのものではない。
大変な一日はまだ終わりではなかった。
「サキト……んっ」
額に乗せた手を誰かが掴み除けてしまう。
こっちを見ろと言わんばかりに。
「アン……」
自分の手を掴んだ相手を見る。
窓際のベッド。普段自分が寝ている場所にアンがいる。こちらを不満そうに見つめながら。
月明りの下で
白く透き通った肌は見るからに滑らかで芸術品を思わせる。
そんな麗しい彼女がエメラルドグリーンの瞳に不満を湛えてサキトを見ている。
「アン……その……」
もう寝るわけだから手を放してくれませんか。
そう言ってみるがアンは従ってはくれない。むしろ更にサキトの手を自分の胸元へと引っ張ってしまう。二つ並べたベッドを跨いだ形になるので、しっかりと腕が伸びてしまう。
自身の手の行方を確認して咲人は軽く後悔した。
アンの豊かな双丘、かなり無防備な胸元に咲人の手は乗せられていた。
「あ、あの……」
「んうぅ~!」
反射的に離そうとする手をアンが逃がすまいと自分の胸に押し付ける。
――これは……凄いな、流石に……!
すべすべでふにふにだった。
――手の甲で良かった! 手の平側が触れていたら大変でした! お父さんが!
「一緒に、いるって言った」
アンは恨めし気な視線を咲人によこす。
咲人としてもその言葉に嘘はない。
けれど、なんというか3ステップほど段階を飛ばしている気がしてしまう。
「一緒にいて……くれないの? サキトぉ……」
その不安げに揺れる声は反則だ。
試合は即時終了となるのだ。咲人の負けで。
咲人は観念した。
「大丈夫ですよ、アン……」
「うん!」
だが、このままではマズイので気を落ち着けるために少しだけここに至る経緯を思い出そう。これは二人のためのタイムアウトだ。決してお父さんはヘタレたのでは、ない。そう咲人は自分に言い聞かせた。
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