回想:娘は同僚を頼る

旭日あさひ、ちょっと……」

「うん?」


 丹湖門えみは同僚を小声で呼び出した。

 真ん中分けの前髪と形の良いオデコ、勝気な釣り目が印象的な女性が自然な動作でデスクから離れえみの元へやってきた。

 朝比奈旭日あさひなあさひはえみと同期で同じ部署で働いている。馬が合ったことと、ある事情からかなり仲が良い。


「どしたの? えみ?」

「うん、実は……」


 二人はたまたま居合わせたような雰囲気でトイレへと向かう。


「ちょっと、今日ね、早退したいんだけどさ……」

「おぅ?」


 パンッとえみは合掌した。

 丹湖門えみは基本的に自分のことは自分でキッチリと済ませる人物だ。むしろ、他人に手を貸す側に回ることが多い。

 例外として父親に関することには貪欲且つアグレシッブに動く。

 これが旭日のえみに対する評価だ。


「うんっ、任せて! とりあえずあと半年くらいはサボり気味でもあたしは許す。あたしは、ねっ?」


 冗談半分で軽く釘を刺しつつ、旭日はえみのフォローを快諾した。

 

「ホントごめん! 旭日がOKしてくれるなら万事大丈夫だからっ、うん」


 えみは旭日を拝み倒す。


「けど、アンタ一度長期で休んでリセットした方がいいよ。マジで?」

「うんうん、そうだねっ、旭日」


 えみがこんな風に他人を頼るのは珍しいことだ。だからだろうか、旭日は少しむず痒い気分になる。


「いいのよ。アンタ色々大変だし、あたしたち同期のトリオじゃん?」


 そう言って朝比奈旭日(旧姓韮山)は笑った。

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