咲人「サーチ&それから……」

 えみからのメールを読み返し咲人は瞳を閉じた。

――背中、押されたな。まったく情けない。

 アンの傍にいたいならそうしても良い。

 そうは書いていなかったが、そういう選択をえみは許してくれた。

 そして、気づいた。


「なにを……上から目線で選ぶ側に立ってる気でいたんだ、俺は」


 アンの弱いところばかり見て自分の選択だけを重視していた。咲人が何を選ぶかとアンがどうするかはイコールではない。彼女にはそれを拒むことも、反対することだって出来る。

 魔法が使えるのだから強さも彼女の方が上だ。


「それなのになぁ……」


 自分がなにもかも決めるかのように考えていた。

 そうじゃないはずだ。

 咲人の答えにアンが応えてそれから未来が決まっていく。


「ごく当たり前のことじゃないか……」


 先のことばかり考えていて、いまが見えていなかった。

 アンと向き合わなければ。伝えるべきことは決まった。

 咲人は双眼鏡を取り出すとアンの姿を探し始めた。



 § §



「……そうすぐに見つかるわけないな」


 咲人は嘆息した。

 高所百メートル以上の樹上から広大な森のどこかにいるであろう一人を探す。

 そう上手くいくわけがない。


「けど……」


 たぶんアンは近くにいる。咲人はそう考える。

――あの娘は善良ですから私を放置はしないでしょう……でも。

 どう声をかければいいのか。それが分からずにうずくまっている。そんな彼女の姿が浮かんだ。


「となると……なんとしてでも、先に」


――俺があの娘を見つける。

 咲人はそう決意した。



 § §



 陽は傾く。

――彼女はどこだ。

 空の青が黄金色へと変わる。

――きっと彼女は困っているだろう。

 金から赤へと移ろう。

――もしかして泣いているのだろうか。


「もし、そうなら」


――なにもしてやらないでいる俺は馬鹿野郎だ。

 全てを叶えてやることは出来ないし、自分の全部をくれてやることもできない。

 いまだって、えみのいる世界に帰還したいと思っている。

 ただ、それでも、それは――


「動かない理由にならない」


 どこだ。どこだ。あの娘はどこにいる。

―――見つけた!

 夕日の赤に染まった白金色の髪。膝を抱えてうずくまった姿。

 早く、その顔を上げて欲しい

 涙に暮れていたのならとても嫌だと思う。

 それは自分勝手な言い分だなと思った。

 それでも――

 彼女が顔を上げた。泣いてはいない。

 咲人を見てエメラルドグリーンの瞳が見開かれた。


 やっと 見つけた アン


 そう呟いたとき、咲人は心から笑っていた。

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