アン「貴方が呼んでくれるなら……」
「どうしよう……?」
アンは樹上で膝を抱えて空を見上げていた。
陽は傾きオレンジ色の空を鳥が横切る。それを追うように手を伸ばす。
「…………」
魔法を使えば飛翔が出来る自分には人間族ほど飛ぶ鳥の姿に想い入れはない。
だから、こんな風に鳥に手を伸ばすことなどない。普段であれば。
「サキトのとこまで飛べない……」
§ §
少しだけ時間を巻き戻す。
アンは咲人のところへ戻ることを決めた。彼一人ではどうやってもあそこから降りることが出来ないはずだから。
そうして、ふよふよと空を飛び始めたアンだったが、ふとサキトと顔を合わせたときの第一声はなんて言えばいいのだろう、と思った瞬間に身体が木の枝に着地してしまった。
アンにはそれが分からなかった。
こういうときになんて言えばいままでと同じようになれるのか。悪いことをしたら謝ればいい。けれど、それで充分なのか。それが分からない。
誰かに傷つけられることはあったけど、誰かを傷つけるような経験がなかった。
きっと自分は少なからずサキトを傷つけたし、いまも困らせている。
分からない。分からない。分からない。
「あっ」
ダメだ。飛べない。サキトの所まで行けない。
アンは魔法を上手くコントロール出来ない。
それでも跳躍と飛翔に不便がなかったのは彼女が感情に任せてそれらを行使していたからだ。嫌なものを避け、行きたい所へ行く。
そのためだけに使ってきたから、なんの問題もなかった。
だけど、
§ §
陽はいよいよ地平線へと沈み始めた。アンはサキトがいるであろう巨木を眺めた。エルフの視力なら彼の姿を捕えることが出来るだろう。彼が同じ場所で待っていてくれているならの話だが。
「えっ?」
そして気が付いた。
「サキト?」
咲人はアンを見ていた。双眼鏡とかいうデカい眼鏡モドキを目にあてて。
アンと目が合うと彼は双眼鏡を下して笑った。
やっと 見つけた アン
声が聞こえるはずはない。だけどわかった。
サキトが呼んでいる。
「サキト……!」
身体は気づけば飛んでいた。まっすぐにただ彼の元へ。
分からないことは分からないままだ。
それでも。
「サキト!」
――咲人が呼んでくれるなら、私はきっと迷わず飛んでいける。
アンは咲人の胸にふわりと飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます