アンビエント・ゲイル・シャフト②

「……サキト?」

「おはようございます……にはいくらか遅いですね、アンビエントさん」

「ん、おはよ」


 アンビエントはすくりと起き上がるとキッチンへ向かい浄水ポットの水をグラスへ注ぎ、こくりこくりと喉を鳴らす。

――いまのは、よくなかった……でしょうね。

 後ろめたさから彼女の方を見ずにいた咲人だったが背中にその視線を感じた。


「サキト、どうしたの?」


 振り返ると、柱の陰からアンビエントが首をかしげている。

――懐いてくれてからも、その前からも、この娘はいつも私を見ている。

 出逢ったばかりの頃は臆病な性格も相まって全く近づいて来なかった彼女の姿が目に浮かんだ。

――いまみたいに柱を挟んで一日中睨めっこしていたこともありますね。

 目鼻立ちのはっきりした欧州風の顔立ちの彼女がオドオドとしていた様は日本人感覚の咲人には不思議に感じられた。

 けれどいまは違う。


「アンビエントさん、夕飯にしましょう」

「うん、しよう」


 声をかければ応えてくれるのだ。


「うん。でも……また焼き魚?」

「まだ食べられるものがよくわかりませんからねぇ、川魚は生ではイケませんよ」

「……生で魚なんて食べないよ?」

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