010【1】
キョウスケ達は親衛隊の駐屯施設まで辿り着いていた。
道中、親衛隊の兵士とは一人も遭遇せず、戦うことを避けて敵の中枢にまで潜り込めたのだ。
「静かだな……」
敵の中枢に入ったものの、そこはあまりにも静か過ぎた。
兵士は一人もいる様子は無く、気配も全く感じ取れない。しかしそれが返って、グレイには怪しく見えた。
「ヘッヘッ……まっ敵の本拠地に乗り込んだのに、もぬけの殻だったらそれはそれで拍子抜けしちゃうもんだねぇ」
気楽そうに話すジャックだが、彼もそれなりに警戒はしており、片手は常に短剣の柄を握れるようになっている。
このままで終わるはずがない。異界の門がここにある限り、この駐屯施設に護りを置かないのはあまりにも愚策。
アスタロトとて親衛隊を率いる長である。それなりの作戦は練っているはずだった。
「キョウスケ……一応魔札の準備はしておけ」
「うん……!」
グレイにうながされ、キョウスケは二枚の魔札を握る。ジャックとグレイの刻印の入った魔札を。
「刃紋一閃!」
突如、声が聞こえると白い大きな波のようなものがキョウスケに向けて放たれた。
「キョウスケ!」
グレイは瞬時にキョウスケに体当たりをし、キョウスケの体は吹っ飛ぶ。
先程までキョウスケのいた足場は、白い大きな波によって縦方向に地面が割れた。
「こ……これは……」
キョウスケの額に汗が流れる。
もしあの場に自分がいたらと思うと、冷や汗が止まらなかった。
「チッ……やはりこれだけじゃ仕留められないか」
「へっへーん!デュラハンの奇襲作戦大しっぱ~い!次はアタイの番だね!!」
「おい!ワーキャットいい加減にしろ!!」
声がするが否や、今度は鉤爪を装備したワーキャットが建物の影から突進して来る。
それを今度はジャックが短剣で受け止めた。
「ヘッヘッへッ……お嬢さん、影打ちをしたいなら正面から飛び込んで来るのはナンセンスだよ?」
「ニャッ!?アタイの決死の飛び込み作戦も失敗!?」
ジャックは全体重を短剣に押し込め、ワーキャットの鉤爪ごと弾き返した。
ワーキャットは五メートル程吹っ飛んだが、その身軽な体で上手く地面に着地する。
「おおう!なかなかいい運動神経してるじゃねぇかお嬢さん。どうだい?盗賊なんて興味はねぇか?」
「えっ盗賊!?むむ……ちょっと面白そう」
「相手の誘いに乗るなバカ!」
「イタッ!!」
するともう一人の声の主だったデュラハンが現れ、ワーキャットの後ろ頭を軽く小突いた。
「にゃああああ!デュラハン殴ったな!お返しに食らえ!!」
「うわっ!止めろ!鉤爪は危ない!やるなら生爪……も鎧に傷が入るから嫌だ!止めろおおおお!!」
何故かデュラハンとワーキャットは敵を目の前にして仲間割れを始める。
「お前ら……あの時のデュラハンとワーキャットか」
グレイは思い出す。市街地で遭遇した二人の親衛隊の兵士のことを。
「フッフッフッ……覚えて……もらっていて……光栄だよケルベロス!!んがあああ!!」
そう言って不敵に笑うデュラハンだったが、ワーキャットの鉤爪をすんでの所で受け止めているギリギリの場面だった。
「にっしっしっ!まあアタイ達のせいで捕まったようなもんだからね。そりゃ覚えてるだろうさ」
「いや……明らかにお前らは空ぶっただけだろ」
「ニャッ!空ぶってないもん!きっかけにはなったもん!!」
グレイの鋭い突っ込みがワーキャットの心にグサッと突き刺さる。
しかし実際ワーキャットとデュラハンがしたことと言えば、突撃をかわされ火ダルマにされ、大切な場面のパラノイズすらも外すという、言わば散々な結果ばかりだった。
「確かにあの時は散々な結果だったが……しかし我々はもう一度アスタロト様にチャンスをいただきこの駐屯施設を護衛する役をもらったのだ!」
デュラハンは胸を張り、誇らし気にする。
「……なあグレイ、これってさぁ隊に邪魔なやつをわざわざ重大な任務に着けて、わざと失敗させてスッキリ追っぱらおうってするあれじゃないかねぇ?」
「……俺もそう思う」
「な……な……なんだとおおおおお!!!」
デュラハンの脳天向けてショックの稲妻が落ちる。
そう、アスタロトは他の部下からデュラハンとワーキャットがケルベロスに返り討ちにあったとの報告を受け、すでに見切りをつけていた。
そんな時にデュラハンがドワーフの情報を持って来たので、その褒美と称しこの駐屯施設の重要な護衛役を与えた……というのはフェイクであり、この重役を失敗させスッパリ切ってしまうというのが魂胆だったのだ。
つまりデュラハンとワーキャットは、まんまとアスタロトに利用されただけだったのだ。
「な……なんだかあの二人かわいそうだね」
「フン……暴君ってのはそんなもんさ。自分の意にそぐわない者は切り、部下は利用するだけ利用し、使えなくなったら捨てる」
「……許せないね」
「あぁ……」
キョウスケは怒りに燃える。
きっと自分達を追いかけていた親衛隊の兵士達も、アスタロトに使いに使われ、搾りかすになってしまえばその内捨ててしまわれるのだろう。
アスタロトは自分の兵士達を仲間と思ってはいない。
アスタロトにとって、味方の兵士達は奴隷でしかない。
そんな暴君を、キョウスケは許してはおけなかった。
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