010【2】
「お願いしますデュラハンさん、ワーキャットさんそこを通してください……」
するとキョウスケはグレイとジャックより前を歩き、デュラハンとワーキャットの前に立つ。
「と……通せるものか!これはアスタロト様の命令!」
「そ……そうだよ!アタイ達はアスタロト様に直々に命令されたんだ!捨てられるなんてそんなこと……」
「そんなことない……なんて言えないんじゃないですか?」
「ぐっ……ググッ……!!」
デュラハンとワーキャットはキョウスケの勢いに押される。
その迫力は小学六年生のものではない。一人前の魔物使いが放つ、強大なプレッシャーだった。
「もし僕たちがアスタロトを倒せば、あなた達はアスタロトに従う必要は無いんです。それにデュラハンさんもワーキャットさんも親衛隊になれるほどすごい魔物なんですから……こんなところでこき使われるよりも、もっと自分らしく生きていける場所があると思いますよ!」
「自分らしく……」
「生きて行く……場所」
デュラハンもワーキャットも、長年そのようなことを考えたことは無かった。
ただこの親衛隊で兵士をし、ある程度昇進し、ある程度な生活さえできれば、ワガママで滅茶苦茶な上司に頭を下げ、媚びへつらえばそれでいい。そう、今まで思っていた。
だが、今この瞬間気づかされる。それがどれだけ面白くなく、息苦しい生き方なのかを。
小判鮫のような生き方に山も谷もない。全てが妥協につぐ妥協。
そんな道を歩んだとして、自分は本当に立派に生きたんだと、死に際になって思えるだろうか?
このまま死ぬまで、アスタロトの使いっ走りのままでいいのか?
「……本当に勝てるんだな」
「……はい、勝ってみせます」
デュラハンの問いかけに、キョウスケは力強く答える。
「その目……本気のようだな。ワーキャットどうする?」
「にっしっしっ!そりぁあモチロン決まってるでしょ?」
「……そうだな!」
するとデュラハンとワーキャットは剣と鉤爪を下げ、真ん中の道を開けた。
「もうアタイ、アスタロトにはウンザリ……それに兵士なんかより盗賊の方が性に合いそうだし、さっさと倒しちゃってよね!」
「ワーキャットさん……」
「デビルサモナーよ、お前のその瞳に賭けたくなったよ。アンダーグラウンドに再び真の自由を取り戻すため、頼んだぞ」
「デュラハンさん……」
今の魔界は、強さだけが認められる社会になっている。その強さで役職や職業が決まり、弱ければ弱い程閑職へ追いやられるどころか、無職にもなる。そんな世界だ。
しかしかつて、ベルゼブブが統治する以前の魔界には自由という発想があった。魔物が自由に生活し、自由に自分の職業を選ぶ権利が認められていたのだ。
だからデュラハンとワーキャットはこの少年に賭けることにした。以前の魔界の再興を。
そしてアスタロトの悪政が支配するこのアンダーグラウンドに、真の自由を取り戻すことを。
「グレイ、ジャックさん行こう、アスタロトの待つ場所へ!」
キョウスケは先頭に立ち、先に進んで行く。
「フッ……お前達には大博打を打たせることになったな。これで俺たちがヘマをすればお前達は晴れて札付きの無職になるわけだ」
「アスタロトに見切りをつけられた時点で、既にそうなることは決まっていたさ。一度親衛隊を辞めさせられたら二度とは戻って来れないからな。でもこのまま足掻くこともせず去ると後悔する気がしてな……ケルベロス、必ずあの少年を勝利に導け」
「お前に言われずとも、俺はそのつもりだ」
続けて、グレイがデュラハンの隣を歩いて通り過ぎて行く。
「ヘッヘッ悪いね猫のお嬢さん。しかし盗みの才能があるかもってのは本当だからさ、もし興味があったらまたオイラを訪ねておいで」
「にっしっしっ!アタイはなるって決めたら一番になりたいからね。あんたの腕も盗んで世界のものみ~んな盗める盗賊になってみせるよ!」
「おっそうかい、コイツは期待の新人登場ってやつかな?オイラもうかうかしてらんないね」
二人は笑い合い、ジャックはワーキャットの隣を通り過ぎて行く。
様々な思いが交錯する中、ついに決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
この地下世界に自由が戻るか、それとも恐怖政治がより一層根深いものとなるか。
その全ては、キョウスケ達の手に委ねられることとなった。
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